「食堂を扱った作品」の第二弾は、社員食堂を対象にした田中大祐『小説 体脂肪計タニタの社員食堂』(角川文庫、2013年)。世界初の家庭用体脂肪計を開発した健康計測機器メーカー「タニタ」で始まった社員のダイエットプロジェクトの顛末記。一筋縄ではいかないダイエットに挑む人の辛さがはっきりと浮き上がってきます。社員食堂で働く栄養士のお仕事が理解できる作品でもあります。映画『体脂肪計タニタの社員食堂』(主演は優香さん、出演は浜野謙太さん)の原作として書き下ろされた作品。
[おもしろさ] メニュー開発とダイエットの進行具合が日記風に
本書の魅力は、第一に社員食堂の業務やメニュー開発への取組み、第二にダイエットの具体的なプロセスおよびそれぞれの難しさについて、時間の経過とともにどのように変化していくのかをフォローするため、日記風に描き出している点にあります。そして、「やらされるダイエット」は失敗し、楽しみながら行うダイエットでないと、成功しないことが明らかにされていきます。
[あらすじ] 3ケ月余りという短期間で目標は達成されるのか?
埼玉県郊外にあるスーパーに勤務していた栄養士の春野菜々子29歳。店が倒産し、無職のまま21世紀を迎えることに。しかし、高校時代の同級生で、タニタの副社長でもある谷田幸之助から、「栄養士を探している」という言葉を受け、働くことになります。幸之助の父親である谷田卯之助社長は、1994年に世界で最初の家庭用脂肪計付きヘルスメーターを爆発的に売り上げ、健康計測機器メーカーとして不動の地位を築き上げた立役者でした。そしていま、「インナースキャン」と名づけられ、これまた世界初となる新製品「内臓脂肪チェック付き脂肪計」の開発が最終局面に入り、3ケ月半後にその発表会が予定されています。その責任者に任命されたのが幸之助です。ところが、「社員が太っているので説得力がない」という声があがり、社を挙げてのダイエットプロジェクトが実施。肥満体質の幸之助は、「3ケ月半後に痩せて発表会に出なくてはならない」立場に置かれてしまいます。幸之助と菜々子は、社員食堂の新メニュー開発とリンクさせた、ダイエットプロジェクトをスタートさせます。が、3ケ月余りという期限の短さ、プロジェクトのモデルとなる面々のやる気のなさ、さびれた社員食堂のレイアウトなどで、菜々子は、プロジェクトに関わったことを後悔し始めたのです。