「病院を扱った作品」の第三弾は、海堂尊『極北クレイマー』(朝日新聞出版、2009年)です。観光誘致に失敗し、財政破たんにあえぐ、北海道・極北市(人口10万人)。その市立病院を舞台に、「医療崩壊」の実情と再生への模索を描いています。
[おもしろさ] 同じテーマを扱った本を読み比べてみよう!
7月1日に紹介した『限界病院』と同じく、北海道の市立病院における窮状と改革が扱われています。バックアップするはずの市の財政が破たんの危機に晒されていること、旧態依然の運営が行われていること、院長と事務長が対立していることなどの共通点はあるものの、描き方が大いに異なります。二つの作品を比較しながら読んでいくことで、沈滞した地方医療の実態と改革の可能性をより多角的に理解していくことができるでしょう。また著者の海堂は、医療の恩恵を受ける側にも問題提起を行っています。「日本人は今や1億2000万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている……。医療に寄りかかるが、医療のために何かしようと考える市民はいない。医師に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない」と。
[あらすじ] 非常勤の外科医と派遣の皮膚科医がやることは?
極北大学第一外科の上司・織田准教授が推進していたプロジェクトに対てささやかな異議を唱えたのは、外科医8年目、33歳の今中良夫。極北市民病院に非常勤の外科医として飛ばされることになります。博士号も取らず、医局の本流でもありませんでした。赴任してすぐに、看護師からいきなり言われます。「ふうん、こんな病院に来るなんて、よっぽどのドジかマヌケなのね。ま、見ればわかるけど」。やがて、皮膚科の女医・姫宮香織が着任。こちらの方は、国家公務員服務規程に準じた、厚労省からの派遣でした。累積赤字5億円、未収金2億円という病院財政、室町院長と平野事務長の対立、非協力的な看護師たち、いい加減なカルテ管理、プライベート優先の不良研修医・後藤の存在、産婦人科部長の三枝に絡んだ「謎めいた医療事故」など、荒廃した医療現場を、今中は再生することができるのでしょうか? そして、姫宮のミッションとは?