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『院長選挙』 - 医師の両側面-傲慢さと余人の追随を許さない努力

これまでの「作品紹介」のスタイルをリニューアルした関係で、しばらく新規の記事の掲載が滞っていました。新しいスタイルへの差し替えがだいぶん進みましたので、また定期的に更新していきたいと考えております。今後ともよろしくお願いします。

このところ、楽しみに見ていたテレビ番組に、『Dr.コトー診療所』の再放送がありました。志木那島診療所で働く医師を吉岡秀隆さんが扮していました。毎回、島の人たちの命を守るDr.コトーの姿や言葉に感動しっぱなしでした。そこで、医師の職場である「病院を扱った作品」を四回に分けて紹介したいと思います。

「病院を扱った作品」の第一弾は、久坂部羊『院長選挙』(幻冬舎、2017年)です。舞台は、国立大学病院の最高峰でもある天都大学医学部付属病院。次期の院長候補となる四人の副院長たちが繰り広げる激しい戦いを通して、大学病院の内幕を浮き彫りにした作品です。

 

[おもしろさ] 院長選挙という「非日常的な出来事」だからこそ

「医師の世界」の頂点に君臨する有力大学病院は、昔から「象牙の塔」「伏魔殿」といった言葉で形容されてきました。この本の魅力は、一般の人々にとっては、ほとんど知ることができないその世界の裏側を、自身が医師でもある著者が赤裸々に解き明かしている点にあります。そこを一言で表現すれば、誠に人間臭い世界ということになります。院長選挙という「非日常的な出来事」を素材にしたのは、だからこそ見える複雑怪奇な人間関係や権力への欲望を浮き上がらせるための舞台装置として効果的だからでしょうか! 「医療崩壊の救世主」というテーマで取材するフリーライターの目線で、医師たちの序列意識、傲慢さ・自信過剰を浮き彫りにしていきます。同時に医学の発展と患者の治療のため、余人の追随を許さない努力の積み重ねなどにも言及されています。

 

[あらすじ] 候補者は皆、「人格者」とは言えない人ばかり

天都大学病院医学部付属病院の宇津々覚病院長は、頭脳明晰で、院内の人望も厚く、日本の医療崩壊に警鐘を鳴らしていた人物でした。が、謎の死を遂げます。自殺説、事故説、謀殺説がささやかれるなか、次期病院長を選ぶ選挙が実施されることに。候補者の四名はいずれも副院長。それぞれ強烈な個性の持ち主。そして、人間的に未熟で、人望に欠ける人ばかりなのです。①心臓至上主義者の循環器内科教授・徳富恭一、②手術の腕は確かだが、極端な内科嫌いの消化器外科教授・大小路篤郎、③白内障患者を多く集めて、病院の収益に対する貢献度が最も高いことを自負している眼科教授・百目鬼洋右、④古い体質の改善を主張する整形外科教授・鴨下徹。院長のポストを獲得するのは、誰なのでしょうか? そうした院長選挙の舞台裏が、フリーライター吉沢アスカによって明らかにされていきます。

 

院長選挙

院長選挙