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『任侠病院』 - ヤクザが病院を再建する?!

「病院を扱った作品」の第四弾は、今野敏『任侠病院』(実業之日本社、2011年)です。ヤクザの阿岐本組が崩壊寸前の組織を再建するというユニークな「任侠シリーズ」。その一作目の『任侠書房』では出版社、二作目の『任侠学園』では私立高校、そして、三作目となる本書では病院がテーマになっています。

余談ですが、二作目の『任侠学園』は、西島秀俊さんと西田敏行さんのW主演で、今秋映画公開を控えています。また、四作目の『任侠浴場』では、潰れかけの銭湯の経営再建に挑んでいます。

 

[おもしろさ] 患者のために自分の命を削っている医師の姿に感動

今野の任侠シリーズの作品に共通しているのは、「正統派ヤクザの目線」でありながら、「まっとうな視線」で物事を見極め、適切な改善・改革のためのアクションを実行していく姿勢自体の「おもしろさ」です。と同時に、物語の展開にそくして、医師不足、大学病院との関係、新医師臨床研修制度、医師の過酷な労働事情、診察報酬の点数など、病院を取り巻く環境や課題がわかりやすく解説されているのが、この本の魅力です。ろくに寝ないでも、患者のために懸命に働く医師のすごさに、「患者の命を助けるために、自分の命を削ってるんだ」と、感動する阿岐本組の組長の言葉も印象的です。

 

[あらすじ] 病院の改革を阻む医療関連サービス業者

阿岐本組は、東京の下町に事務所を構える昔ながらのヤクザ。組長の阿岐本雄蔵に仕えるのは、代貸の日村誠司以下、四人の若い衆だけという零細組織。「堅気に迷惑をかけてはいけない」という姿勢が徹底し、さまざまなトラブルの相談には気軽に応じることから、地元の古い住民からは慕われる存在。阿岐本組長のもとに、理事になって潰れかけた駒繋病院を再建してほしいという依頼が舞い込みます。引き受けることになった阿岐本と日村は、初めて病院を訪問。気づいたのは、汚れた外壁、体力のない病人や老人には「重すぎるドア」、固くて座り心地の悪いベンチ、不愛想な受付、暗い雰囲気の照明など。ただちにそれらを改善しようと動き始めます。ところが、掃除、消耗品の購入、入院患者の給食、医療廃棄物の処理などを一括して請け負っているシノ・メディカル・エージェンシー(SMA)による妨害が始まります。しかも、そのバックに、関西の広域暴力団系列の耶麻島組という暴力団がいることが判明するのです。

 

任侠病院 (中公文庫 こ)

任侠病院 (中公文庫 こ)

 
任侠学園 (中公文庫)

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任侠書房 (中公文庫)

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任侠浴場 (単行本)

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