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『限界病院』 - 地方病院における「医療現場」の危うさ

「病院を扱った作品」の第二弾は、久間十義『限界病院』(新潮社、2019年)です。深刻な財政危機に陥っている地方都市の市立病院の再生への模索とそれを阻む動きが追求されています。

 

[おもしろさ] 地方病院の「窮状」と「改革」

本書のユニークさは、ズバリ地方病院の「窮状」と「改革」に真正面から切り込み、苦境をどのように乗り切るのかを示した作品であることです。「窮状」の一端については、[あらすじ]のところで紹介することとし、ここでは、「改革」のための方策の一部を紹介しておきましょう。外部から医師を受け入れ、特色のある「目玉商品」(アメリカ仕込みの流儀で新風を巻き起こせる救急医療体制)を作り出す一方、研修プログラムを充実させて、国家資格取得直後の人材を受け入れるという手法。また、在宅医療を軸に巡回制度を展開したり、コンサルを活用したりといった改革策についても言及されています。それらは、地方における医療改革を考える際、大いに参考になる素材となるでしょう。

 

[あらすじ] 東京から北海道にやってきた医師が直面した現実

東京の大学病院から北海道の富産別市立バトラー記念病院にやってきた城戸健太朗(39歳)。地方で理想の医療を追求しようというのではなく、高校の同級生だった内科部長の飯島亮に強引に頼み込まれたための突然の赴任でした。城戸の方も、無理を重ねての都会での生活に疲れ切っており、骨休みという気持ちだったのです。ところが、人口3万人の富産別市にあるその病院には、さまざまな課題が山積みになっていました。過疎化に伴う患者数の減少、財政悪化のために病院への補填支出を削減し、さらには病院の大改革に介入しようと考えている富産別市当局との考え方のズレ、曾田遼院長と伊藤事務長との対立、医師の派遣を北斗医大に全面的に依存・従属しているという状況下での同大学病院との対立、「なにもしない主義」を堅持した曾田院長などです。赴任早々に、外科部長への就任を依頼された城戸は、東京の警察病院の副院長を務めていた大迫佳彦医師が新院長に就任したことで本格化することになる病院改革の渦に巻き込まれていくことに。

 

限界病院

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