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『幸せの条件』 - 農業問題の「解決策探し」と自分の「生きがい探し」

「農業を扱った作品」の第四弾は、誉田哲也『幸せの条件』(中央公論新社、2012年)。農業活性化の方策として考えられている「異業種による農業への参入」や「エネルギー問題への貢献という農業の新しい可能性」が扱われています。また、「農業オンチ」の主人公・瀬野梢恵が「自分の目標」を探し出すまでの過程と、農業をイロハから理解し、その活性化の筋道を考えるのに格好の作品と言えるでしょう。

 

[おもしろさ] 「これをやって生きていきたい」と思えるまで

なにかとなにかを比べてどちらがマシかという選択基準だけで生きてきた瀬野梢恵。そんな主人公が「これをやって生きていきたい」と、自分自身が必要とする生き方を見出すことができるようになっていきます。そして、「こんなご飯を、普通に食べるという贅沢。みんなで笑いながら、大皿に載った食卓を囲むという幸せ」を発見していきます。そうした彼女の成長のプロセスが描かれるなかで、日本の農業・食糧問題の内実と活性化の方策が解き明かされていくのが、本書の特色です。

 

[あらすじ] 農業問題とエネルギー問題を同時に解決できる!?

瀬野梢恵24歳は、片山製作所に勤務して2年間、「さしたる能力もなく、誰にも必要とされず、見向きもされない自分」を歯がゆく感じ続ける日々を過ごしていました。ある日のこと、バイオエタノールの原料となるコメの作付け先を見つけてこいという社長命令で、長野県の農村に出張することに。が、行く先々で「コメは食うために作るもんだ。燃やすために作れるか」と門前払い。さらに、農業法人「あぐもぐ」の社長・安岡茂樹に、まずは体でイチから農業を知れと一喝されます。そこで初めて農家が抱える現実を思い知ることになる梢恵。問題の深刻さや農業の大切さは、誰もがわかっていること。しかし、キツイ、汚い、儲からないということで若者たちからは極めて遠い存在のままになっています。広大な休耕田を活用して、バイオ燃料となるコメを作付すれば、食料・農業問題のみならず、エネルギーも「自給自足」するという形で、エネルギー問題の改善にも大いに寄与できるのです。しかしながら……。

 

幸せの条件 (中公文庫)

幸せの条件 (中公文庫)