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『ずんずん!』 - 牛乳配達をグローバルな視点で見てみよう!  

「新生」を扱った作品の第二弾は、山本一力『ずんずん!』(中央公論新社、2016年)です。前回の作品は、「逆転の発想」という考え方に即した小説だったのですが、今回は、「温故知新」の考え方に沿って、新しいものを創出していく姿を描いています。江戸時代の深川界隈を舞台に、「職人の世界」を中心に多くの人情噺を世に送り出されてこられた山本一力さん。多くの作品で描かれているのが「プロの職人魂」や「人の情」。そうした要素が、この作品では東京は下町の牛乳販売店に舞台を移して描かれています。

 

[おもしろさ] 古くからあるものも新しい価値の創造に繋げるには

牛乳の宅配。一見するだけでは、極めて単調な作業の繰り返しにしか映りません。しかし、それを可能にするには、多くの人たちの綿密な連携と努力が不可欠なのです。この本を読んで発見できるのは、そうしたサービスの奥に潜む「仕事の流儀」です。そして、もうひとつの発見は、牛乳配達をグローバルな視野で見てみると、世界に誇れる日本に固有なサービス、日本の文化に根差したビジネスになっている点です。それは、ただ牛乳というモノを届けるだけではなく、ときには顧客の話し相手になったり、買い物に行けなくなった弱者の手助けをしたり、異変を感じたときに助けを求めている人をサポートしたりというように、地域の人たちとのコミュニケーションにも役立っているのです。そのうえ、宅配する商品を増やしていけば、今後ますます大きな問題となる「買い物弱者」に対する対応策という新たな可能性が示されています。

 

[あらすじ] 配達スタッフのお仕事には、隠された役割も

明治初期、いち早くミルクが家庭に上ることを判じた纏真之介によって創設されたのが纏(まとい)ミルク。ミルクの製造と卸でスタートし、戦後は販売店として継承されていきます。店舗は、大川(隅田川)の西側から東側に移転。そして現在、「牛乳配達は金儲けだけが目的じゃない。ひとさまの役に立つこともまた大切」という考え方が引き継がれています。三代目の纏慎太郎の息子・亮介は、纏ミルク浜町店の店長。2014年1月6日午前4時。新年の仕事始めの時間です。亮介の妹であるあかね、最年長の田代龍平など、配達スタッフ全員で雑煮を祝ったあと、配達が始まります。170軒を受け持つ田代は、顧客の一人である湯川家の保冷ボックスにちょっとした異変を発見します。胸騒ぎを覚えた彼は、廊下で転倒して脳震盪を起こして倒れていた湯川かおるを救出することに。纏亮介が自分なりの「仕事の流儀」を獲得するまでの成長プロセス、地域の仲間や顧客たちとの触れ合い、日本人ならではの文化としてアメリカで紹介される番組の制作にまつわる話が綴られていきます。

 

ずんずん!

ずんずん!