経済小説イチケンブログ

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『ストロベリーライフ』 - こんなに重労働なのに儲からない。なぜか? 

「農業を扱った作品」の第三弾は、荻原浩『ストロベリーライフ』(毎日新聞出版、2016年)。農業の未来をどうするのか? 農業はこんなにも重労働なのに儲からないのはどうしてなのか? 農家の子どもが家業を継ぎたくない理由は、どこにあるのか? そうした問いかけに対する答えが詰まっています。大企業や組合法人による農業参入に伴う活性化と並んで重要な施策となりえる「個人農家レベルでの活路の模索」がメインテーマになっています。

 

[おもしろさ] 農家は、消費者のニーズを考えているのか? 

本書の軸となっているのは、農業問題の根本と言える、生産者である農家が消費者のニーズに無関心であるという実情が指摘されていることではないでしょうか。著者の荻原は言います。「農家にはお客さまが足りない……。どの時期にどんな作物を出荷すれば高値がつくか、といった計算ぐらいはしても、作物という自分の『商品』を消費するお客さまが何を求めているのか、どうすればもっと売れるようになるのかは、あまり考えていない」と。「うまいんです」と訴えるだけでは、なんの説得力もありません。手に取ってもらうためには、なんらかの仕掛けが必要になってくるのです。では、どうすれば良いのでしょうか? この本で明らかにされていくのは、そうした核心部分にほかなりません。

 

[あらすじ] イチゴ農家活性化のためのアイデアの数々

主人公の望月恵介(36歳)は、11年間の広告代理店勤めを終え、独立して2年目のデザイナー。しかし、ワンマンオフィスは閑古鳥が鳴いています。妻の美月は生活雑貨ストアでパート勤め、子どもの銀河は幼稚園児。そんなとき、富士山の麓でイチゴつくりをやっている親父が倒れたという電話が。急きょ里帰りし、農作業を手伝うはめに。「ずぶの素人」であったにもかかわらず、恵介は、父が残したノートと初心者農家向けのマニュアル資料『いちご白書』を頼りに、イチゴづくりに手を染めていくことになります。家庭崩壊の危機を感じながらも、イチゴを作り続けるしか方法がなかったのです。なぜか? イチゴは「生き物」だからです。「いったん世話を始めた生き物を自分の都合で死なせるわけにはいかない」。やがて、恵介の頭には、将来についてのアイデアが次から次へと浮かび上がってくるのです。