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『わたしの神様』 - 女性アナウンサーの暗部を浮き彫りにした稀有な作品! 

「テレビ局を扱った作品」の第五弾は、小島慶子『わたしの神様』(幻冬舎、2015年)です。著者はTBSの元アナウンサー。女性アナウンサーと彼女たちを取り巻くテレビ局における人間関係が赤裸々に描かれています。アナウンサーの思考様式、処世術、そして仕事のやり方などを描いたお仕事小説でもあります。

 

[おもしろさ] 華やかさの影で、渦巻く嫉妬と執着と野心

メディアの世界における女性アナウンサーは、多くの場合、非常に華やかな存在です。テレビ局の社員であるにもかかわらず、売れっ子になると、まるで花形スターかアイドルのように扱われます。しかし、たとえ人気があろうとも、現場は常に目新しい次のアナウンサーを欲しがるもの。入社して、10年以上経つと、残っているのはごくわずかという、厳しい世界でもあるのです。この本に登場するのはすべて、けっして善人とは言えない一癖も二癖もある人ばかりです。もっとも、女性アナウンサーを好きなように使って、威張り散らして、用済みになればポイと捨て去るようなディレクターや局長などの存在も、けっして褒められたものではありませんが。描かれることが少なかった女性アナウンサーの暗部を浮き彫りにした稀有な作品と言えるでしょう。

 

[あらすじ] 人気のアイドルアナからニュースキャスターへの転身

27歳の元ミスキャンパス出身の仁和まなみ。全国で人気ナンバーワンの局アナと呼ばれている「アイドルアナ」です。「引き上げてもらえる男を見極めて、味方につけたら、あとは女に嫌われないようにすればいい」という処世訓の持ち主。ニュース番組「ウィークエンド6」のキャスターを7年間務めた優等生の佐野アリサ(34歳)がちょうど産休に入ることに。同局きっての辣腕プロデューサーである藤村は、視聴率が振るわなくなっていた同番組の後継キャスターに仁和まなみを起用します。仁和の思うところは、「ニュースキャスターに、ジャーナリスティックな才能なんて必要ない。ただ、それがいかにも一大事であるかのように演じる感性があればいいのだ」というもの。アイドルアナのニュースキャスターへの鮮やかな転身。しかし、1回目の視聴率は、前週プラス0.5%でしかありませんでした)。その後も、低迷ぶりを改善することはかなわず、さらなる低視聴率のテコ入れのため、報道局長の強い推薦で、新たに「特集キャスター」として、才色兼備の帰国子女の立浪望美(34歳)を起用することに。果たして、その後の仁和まなみに、どのような展開が待ち受けているのでしょうか? 

 

わたしの神様

わたしの神様

  • 作者:小島 慶子
  • 発売日: 2015/05/01
  • メディア: 単行本