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『老後マネー戦略家族!』 - 老後資金:目標は3000万円? 

「老後資金を扱った作品」の第二弾は、松村美香『老後マネー戦略家族!』(中公文庫、2017年)。「夫婦が90歳まで生きるとすると、必要な金額は、年金を除けば3000万円」。そういう情報をもとに始まった、ある中流家庭のマネー戦略=「資金ゲット」作戦が描かれています。

 

[おもしろさ] 不可欠なのは家族・親戚・地域の協力態勢

定年後の生活と将来の夢のための資金を確保するために考えられた「マネー戦略」。強調されているのは、家族および身近な親戚の協力態勢の構築と、社会との関わり・人間づき合いへの配慮を軸に、仕事・投資・起業の三点をうまく組み合わせて、戦略の全体像を組み立てることの必要性です。おカネを稼ぐためのあの手この手と、その際の心構えが紹介されています。

 

[あらすじ] 資金ゲット作戦は家族の再生劇でもあったのだ

技術畑で30年間務め、いまは会社の製造部門を支える埼玉工場の副工場長を務めている山田和夫。一男一女に恵まれ、都内にある一戸建ての家に住んでいます。妻の陽子は専業主婦。これまで金銭的な心配は一度もしたことがありません。とはいえ、息子の宇宙は、いったんは人気のある銀行に就職したものの、1年で仕事を辞め、なかば引きこもりのような生活を続け、ゲーム感覚で株の取引を行っています。成人式を迎えた娘の心果は、小説家志望。家族間の意思疎通は、けっしてうまく行われてはいません。ある日のこと、夫婦間で、山田家の経済状況について意見交換が始まると、将来の生計費のことを考えだした和夫に、大きな不安がよぎることになります。「この先どうやって老後資金を貯めたらいいのだ」。このようにして、戦略を立てて老後資金の獲得をめざした動きがスタートするのです。それは、同時に、山田家の構成員である四人がそれぞれのやり方で、自分の将来のことを真剣に考え、自立する道を探し始めるという道のりでもあったのです。

 

老後マネー戦略家族! (中公文庫)

老後マネー戦略家族! (中公文庫)