経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『小説・非正規』 - 非正規労働者のリアル

非正規労働者を扱った作品」の第二弾は、北沢栄『小説・非正規 外されたはしご』(産学社、2016年)です。大手外食チェーン、世界的な自動車メーカー、年金機構、学校、メガバンクなどにおける非正規労働者のリアルが描写。低賃金・使い捨てという過酷な労働環境から抜け出すには、どのような方策があり得るのでしょうか? 著者は、共同通信経済部記者、ニューヨーク特派員を経て、フリーのジャーナリスト。

 

[おもしろさ] 非正規の「ありのままとホンネ」

なぜ非正規になったのか? やむを得ない事情があり、就職を決めずに大学を卒業したことで、「正社員のはしご」が外された。次のチャンスを待つ間、フリーターで食いつなぐ。これが重なると、いつの間にか三十路に差し掛かっていくことに。では非正規の士気を高め、潜在能力を発揮させるためのキーコンセプトとは、なにか? それは、コストとして見ず、一個の人間として扱うという基本姿勢だけ。非正規のリアルの一端を示すと、「勤務1日12時間以上、12連勤、起きている時間はシャワーを浴びるか食べるか、大小便だけ」「単純繰り返し労働が連日続くと、考えるのが億劫になる」。本書の魅力は、非正規労働者の「ありのままとホンネ」が克明に描かれている点にあります。

 

[あらすじ] 「非正規のプロ」が行き着いた先は?

低賃金と雇用の不安定さという意味では極めて厳しいものの、いろいろと経験を積むことで職業遍歴を楽しめるという要素もある非正規雇用。東大卒業後の社会人生12年間をすべて非正規に携わり、「非正規のプロ」を自認する弓田誠(34歳)。「1年以上の有期雇用で勤務した会社だけで4社。1年未満を入れれば10社近い。雇用の種類もほとんど全部経験した。アルバイト、パート、派遣社員契約社員とね。昼と夜に別のパート先で働く掛け持ちも、月150時間を超える過激残業も経験済みだ」。いくつかの業界における彼の非正規労働を通して、非正規労働者の状況が浮き彫りにされています。そして、非正規を卒業して、弓田が行き着いたのが、「非正規雇用の若者にとって実に心強い就労サポート事業」の立ち上げ。それは、クラウド・ファンディングを活用して資金を集め、これまでの非正規での経験で作り上げた人的ネットワークも援用して行われたのです。

 

小説・非正規 外されたはしご

小説・非正規 外されたはしご