「会社のトラブルを扱った作品」の第四弾は、上野歩『あなたの職場に斬り込みます!』(光文社文庫、2022年)。さまざまな労働関連の法規に基づき適切な就業環境づくりを指導する立場にある労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)。いずれも労働局の直轄下にあります。新たに立ち上げられた厚生労働省東京労働局雇用環境・均等部千鳥ケ淵分室(コキン部分室)を舞台に、労働者の待遇改善やトラブル対応に奔走するスタッフたちの活躍が描かれています。
[おもしろさ] 「真相」を浮かび上がらせ、事案を改善・解決
職場が抱えるさまざまなトラブル。内部の自助努力で改善されるケースもありますが、「外部の圧力・指導・摘発」がなければ、そのまま放置されることもまれではありません。会社・組織のなかには、トラブルや不祥事が公になることを嫌う「隠ぺい体質」が根強く残っているところがあるからです。また、そもそも問題のある行為をトラブルや「違反」と認識していない人たちも意外と多いのです。とはいえ、いつまでも隠し通せるものでもありません。トラブルを指摘・告発するメールや匿名電話により、事案が明るみになることがしばしば起こります。本書の特色は、コキン部分室に送られてきた事案のいわば「オモテの部分」だけではなく、背景に潜んでいる「ウラの部分」も含めた「真相」を浮かび上がらせ、事案の改善・解決が図られていく点の描写にあります。
[あらすじ] サユリとマンマミーアとジョーの斬り込み
2021年4月、間宮璃子24歳(通称マンマミーア)は、ハローワーク吾妻から、オープンしたばかりのコキン部分室に異動。同分室の「使命は、労働基準法、職業安定法、男女雇用機会均等法など、いずれにも限定しない職場の問題にフレキシブルに対応すること」にあります。ほかのメンバーは、室長の漆原小百合(サユリ)、中央労働基準監督署からスカウトされた城ケ崎以蔵(ジョー)の二人だけ。正式名は、「特例事案指導官」というもっともらしい名称ですが、「職場の斬り込み隊」をめざしています。先代社長の銅像に対するお辞儀の強要、レジでのセクハラ、「部長が毎日夜遅くまで仕事をしていて、いつ退勤したらいいのかがわからない」という悩み、「タバコを吸わない社員が出世から見放されている」という訴えなど、働く人たちの訴えに応え、少数精鋭で問題企業に斬り込んでいきます。