経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『あなたの人生、片づけます』 - 不要品を「片づけられない」人への応援小説

モノに満ち溢れた現代社会。どの家でも、もう使うことがないように思われる不要品が結構たくさん溜まっているのではないでしょうか。置いておくには、スペースが必要。できれば整理したい。片づけて、すっきりしたい。そのように思っておられる方は多いことでしょう。ところが、「思い出が詰まっている」「愛着がある」「ひょっとしたら、また使うこともあり得るかも」といった理由で、ただちに処分するには抵抗感も。その結果、不要品がどんどん増えていくことに。そのようなとき、片づけたいという気持ちを後押ししてくれる、「片づけ屋」のような「お仕事」がビジネスとしてあれば、いったいどのような展開があり得るのでしょうか? 
 
他方、同じように不要品であったとしても、家庭ではなく、店やオフィスの備品などの場合は、事情が異なってきます。この場合は、いわばビジネスライクに中古品として買い取ってくれる業者に、その処分を依頼することになるからです。しかし、このような場合にあっても、不要品の処分には、簡単には進まない諸般の事情が絡んでくるようです。そこで、「閉店屋」と称される「お仕事」を描いた作品を通して、依頼主の事情に応じて、引き取る側には、実に臨機応変の対応が不可避になるといった事情を考えてみたいと思います。モノに満ち溢れた現代社会。不要品の処分は、誰しもが抱える問題です。

「捨てるか、捨てないか?」「捨てるか、売るか?」「売るとしたら、どこでどう売るのか?」。悩みは尽きません。不要品を扱った二冊のお仕事小説を紹介します。

「不要品を扱った作品」の第一弾は、垣谷美雨『あなたの人生、片づけます』(双葉社、2013年)。さまざまな理由で片づけることができないでいる人たちの心に寄り添いながら、不要品の処分を実行に移していく50歳代の「片づけ屋」大庭十萬里の物語。ブログが出版社の目に留まり、『あなたの片づけ手伝います』を出版したことで、その存在が知られることになります。丸顔でごく普通の風貌ですが、片づけられていない部屋を見ると、「片っ端から片づけたい衝動にかられる、血が騒ぐ」とか。

 

[おもしろさ] まずは「片づけられない」理由の確認から

「部屋を片づけられない人間は、心に問題がある」と考えている大庭。そのため、まずは依頼主もしくは当事者の心のなかに潜んでいる「片づけられない」理由を明らかにし、それを解きほぐすような形で、「片づけ」の仕事を遂行していくことになります。それぞれの事情に合わせ、大庭が依頼案件を見事に解決に導いていく様子の描写が本書の魅力です。

 

[あらすじ] 「片づけられない」四つのケース

第一話で登場する32歳の独身OLの永沢春花は、大手生命保険会社の広報部に勤めて十年。自宅マンションは、1LDKで40㎡。あまりにも物が多すぎて、「ゴミの山」と呼びうるような状態です。際限なく買い物をして、部屋がどんどん汚くなっていったのは、41歳の妻子ある男性課長との不倫が原因です。春花が騙されていると考えた大庭は、不倫相手に直接電話をして関係を断ち切ってしまいます。「もっと丁寧に生活しよう。生活そのものを楽しもう。もう誰にも振り回されずに生きていこう」。そう決心した春花の部屋は、きれいに片づけられることに。第二話に出てくるのは、妻に先立たれ何事にもやる気を失ってしまった国友展蔵。一人娘の風味子の依頼でアドバイスを引き受けた大庭は、彼が「前向きになるきっかけを与える」ことで、亡くなった妻の持ち物も片づけられるようになっていきます。第三話では、娘の睦美の依頼で関わりを持つことになる78歳の三枝泳子、第四話では、72歳の姑の依頼で関わることになる池田麻美子(交通事故で無くなった息子の死を未だに受け止めることができないでいる)のそれぞれの「片づけ」が描かれています。