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『閉店屋五郎』 - 中古屋を営む五郎の心意気

「不要品を扱った作品」の第二弾は、原宏一『閉店屋五郎』(文藝春秋、2015年)です。倒産した会社や閉める店舗の備品(厨房機器、オフィス機器、家具、道具類など)を買い取って、自分の店「中古屋 五郎」で販売することを稼業としている五郎。閉店時の買い取り撤去に力を入れ始めたところ、周囲から「閉店屋五郎」と呼ばれるようになりました。

 

[おもしろさ] 情に厚いばかりに、いつも予期せぬトラブルに

倒産や閉店には、それぞれに異なる裏事情があります。借金まみれになって閉める場合、店主が病に伏して閉める場合、大繁盛して新店舗へ移転するために占める場合など、いろいろです。理由いかんでは、閉店作業の現場に債権者が押し寄せ、大混乱に陥ることもあれば、閉店当日に、代々受け継いできた店を閉めるのは忍びないと、突如キャンセルになることもあります。そのため、事前にしっかりと下調べを行い、それなりの対策を講じておくのが、五郎のやり方になっています。騙されて失敗したこともありますが、仕事への熱心さは、人一倍。「情に厚いばかりに、いつも予期せぬトラブル」に巻き込まれてしまうのですが、そうした五郎の気質と人徳ゆえに、依頼主のさまざまなニーズにうまく対応しながら、中古備品の買い取りという自らのビジネスを全うしていきます。この本の魅力は、対応のフレキシビリティと問題解決力の高さを見事に描いている点にほかなりません。

 

[あらすじ] お互いが納得できる形で事を進めたい

事業の失敗、浮気、自己破産などが重なり、妻の真由美には逃げられたものの、一人娘の小百合30歳(フリーランスウェブデザイナー)は、常に五郎の味方となって業務を助けてくれます。五郎がだまされたり、失敗したりしないように、あれこれと説教をするのも彼女の役割です。最初に登場する顧客は、買い取り撤去を依頼してきた藤崎さん。「食事処ふじさき」の店主です。ところが、娘・由佳さんからは、撤去ではなく、「一時預かりというのはダメでしょうか」と打診されます。一時的ショックが収まったら、店を再開できるようにしておきたいとのこと。店主が店を閉めたいと考えるようになった動機を聞かされた五郎は、関係するすべての人が納得のいく形になるように仕事を進めていきます。「人が長い間使ってきた物には、その人の思いや歴史がぎっしりと詰まっているじゃないですか。だから、ただ言われるままに買い取ればいいってものではないし、場合によっては買い取らない、いや買い取れないときだってあります」と五郎。ほかにも、保護者のために認可外保育所の閉園を阻止しようと奔走したり、危機に陥った街角ジャーナルを救済したりする吾郎の姿が描かれていきます。