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『格闘する者に○』 - 「マイペース人間」の就職活動! 

「職探しを扱った作品」の第二弾は、女子大生の就活を描いた三浦しをん『格闘する者に○(まる)』(新潮文庫、2005年)です。「誰にも何も干渉されず、好きなことを好きなだけ自分のペースでやる」。そのような気持ちで大学生活を送っている「マイペース人間」の女子大生の就職活動とは? 著者のデビュー作。

 

[おもしろさ] 大きな不安を感じている学生たちの心情にも言及

本書の特色は、なんといっても、志望から始まり、応募・筆記・面接へと進み、合否で完結するという就職活動の一連の流れがリアルに描かれている点にあります。また、就職活動に身を投じながらも、大きな不安を感じている学生たちの心情にも言及されています。果たして、本当に働けるのか? 毎日電車に乗って、決まった時間に会社に行くといった、規則正しい生活ができるのか? かといって、アルバイトをしてブラブラする道を選択する度胸もない……。誰しもが通る「青春の門」のような心の内がクリアに描写されています。さらに、解説者の重松清さんが指摘されているように、「社会に向けるシニカルではありながら温かいまなざしや、行間からたちのぼるユーモア、自分を笑い飛ばすサービス精神」といった特徴点も忘れられてはならないでしょう! 

 

[あらすじ] 漫画雑誌の編集者になれたらいいな

世の中の学生の多くは、就職戦線の真っただ中。小さい頃から、情熱を持って取り組んだことと言えば、漫画を読むことぐらいしか浮かばない藤崎可南子。漫画雑誌の編集者になれればという流れで、本命は出版社なのですが、まだどの会社も受けていません。就職活動に出遅れているという感覚はあるものの、のんびりと構えているのです。ある日、試験や面接の練習をかねて、百貨店を受けてみることに。「平服でおいで下さい」という説明書きを信じて、ズバリ平服で出かけたのですが、試験会場は見事にリクルートスーツで埋め尽くされていました。受けた「適性検査」は、まったくもってチンプンカンプン。適当にマークシートを塗りつぶして提出……。実際に、就職活動を始動させたものの、世間の荒波に見舞われ、なかなかうまくいかないのです。そうした彼女の就職活動を軸に、政治家である父親・藤崎健二の後継者になるかどうかという問題、のんきな友人たちとの交流、年の離れた書道家の老人・西園寺とのかなり風変わりなお付き合いなども描かれていきます。