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『広告の会社、作りました』 - フリーのデザイナー+コピーライター=新感覚の広告制作会社

「広告会社を扱った作品」の第五弾は、中村航『広告の会社、作りました』(ポプラ社、2021年)です。広告会社「アド・プラネッツ」が突然倒産することで、就職活動をする羽目に陥ったデザイナーの遠山健一と、フリーランスとして個人事務所を開設しているコピーライターの天津功明がコンビを組み、新しいスタイルの広告制作会社を作り上げていきます。健一の成長物語でもあります。

 

[おもしろさ] クリエイターとクライアントが直接向かい合う! 

アド・プラネッツ時代の健一は、言われたことだけをやるごく普通のデザイナー。ところが、転職先の天津功明個人事務所では、「先方にどうやって説明するか考えながら作る」ことが求められるようになったのです。天津は遠山に言いました。「営業が仕事取ってきて、それをクリエイティブが形にして、ディレクターが説明して、みたいなやり方じゃなくて、クリエイターが客先に直接出向いて、より良いモノを、早く、丁寧に作っていく。その方が時代に合ってると思うんだよ」。本書の特色は、そうした小規模だからこそできる、新しい広告制作会社のあり方、そして「良い広告」とはいかなるものなのかが明示されている点にあります。

 

[あらすじ] そのコンペは「出来レース」だったのですが……

デザインの専門学校をでた遠山健一は、広告制作会社「アド・プラネッツ」で働いていました。同社は、社員総勢十数人の小さな会社。不況の中でもなんとかうまくやれていました。ところが、メインクライアントの不祥事で、会社は倒産。キャリアが1年過ぎ、ようやくデザイナーという肩書にも慣れてきた健一にとって、まさに「青天のへきれき」。「どこか会社に入って、与えられた仕事を淡々とこなす」ことを願う健一の就職活動は、なかなかうまくいきません。3ケ月近くが経過。やっとの思いで、タウン誌に掲載された求人広告を見つけ、さっそく応募。それは、フリーランスのコピーライター・天津功明の個人事務所でした。最初の面談でいきなり、事務所の仕事の一部を割り振られます。こうして、「一緒にやる仲間」としてコンビを組むことになった健一と功明。遭遇する大きな関門は、大手住宅会社「KAKITA」の新商品カタログのデサインに関するコンペ。「手間と情熱を惜しまず、この仕事にまい進しよう」と決意する健一。しかし、それは発注先がすでに決まっている「出来レース」だったのです……。