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『コンビニ兄弟』 - 「ひとにやさしい」コンビニって? 

「コンビニを扱った作品」の第二弾は、町田そのこ『コンビニ兄弟-テンダネス門司港こがね村店-』(新潮文庫、2020年)です。九州だけのコンビニチェーン「テンダネス」。「ひとにやさしい、あなたにやさしい」がモットー。同チェーンの門司港こがね村店を舞台に繰り広げられるハートフルお仕事小説。イケメンで、フェロモンを泉の如く垂れ流し、老若男女の心を虜にしてしまう「魔性のフェロモン店長」・志波三彦30歳と、彼の兄で、「廃品回収業兼なんでも屋」を営んでいる志波二彦、店員の中尾光莉などが軸になり、店員と客の心温まる交流が描かれています。「コンビニ兄弟」シリーズ(全3冊)の第一作。

 

[おもしろさ] こんなユニークなサービスも

この本を読んで特に興味がそそられた点は、テンダネス門司港こがね村店が行っているユニークな取り組みの数々です。一つ目は、テンダネスの創業者でもある堀之内会長が開設している「ご意見箱」に届けられる数々のアイデアのうち、なるほどと思われるものを実施に移していくという積極的な本部の手法に全面的に協力していること。例えば、一人暮らしの老人が元気であることを知らせる黄色い旗を外から確認しやすいところに掲げておくという「黄色い旗運動」では、同店が実証実験を行う店舗に選ばれただけではなく、そこでの成功が契機となり、他店舗にも導入されていったこと。二つ目は、「イエローフラッグランチ」(毎日テンダネスの特別日替わり弁当が食べられるという定額制のサービス)。元々は、同店が入っているこがね村ビルの3階から最上階までの高齢者専用マンションの住民向けに始まったサービスでしたが、好評を博し、いまではマンションの住民以外にも利用されていること。三つ目は、「志波三彦ファンクラブ」があり、同店の営業を陰で支えてくれていること。四つ目は、「ピッキング(割れた豆や虫食いの豆、大きさが均等でない豆を選別する作業)をしたうえで、コーヒーを販売していることに加え、さらには博多の「隠れた名店」である幸香珈琲が全面監修したコーヒーを提供するようになったこと。五つ目は、「あかちゃんの食を助ける」という、テンダネスのコンセプトに基づき、粉ミルクから、おつむ、レトルトの離乳食を置く「赤ちゃんコーナー」が設置されていること。六つ目は、単にモノを売るだけではなく、「ここに来れば、ひとがいて、助けてくれる」という点で、周辺地域の人々に安心感を与えていること。コンビニ活性化のヒントが満載! 

 

[あらすじ] 超個性的な店員や常連客たちが織りなす世界

中尾光莉39歳がテンダネス門司港こがね村店で働き始めてから、もう4年。夫と息子の三人家族で、充実した日々を送っています。コンビニの仕事自体、楽しくやっているのですが、密かな楽しみは、志波店長を素材に、ネット上に「フェロ店長の不埒日記」というタイトルの人気漫画をアップし続けていることなのです。店長は、話せば普通だし、業務も完璧なのですが、「花の蜜のような匂いをまとっており、声もまた妙に甘く鼓膜を揺らす」ごとく、魅力的な男性なのです。光莉の観察は、常連客にも及びます。とりわけ、伸び放題の髪、顔の下半分を覆いつくす髭、一張羅と思われるライトグリーンのツナギの背にある「なんでも野郎」の文字、愛車の白の軽トラックの荷台に書かれた「不要品回収・お困りごとはなんでも野郎にお任せ!」によって特徴づけられる志波二彦は関心の的となっています。そうした超個性的な店員・常連客は、常連客や地域の悩み事・懸案事項などについて、ときには厳しくてやさしいアドバイスも交え、一緒になって解決・改善策を考えてくれるのです。こうして、門司港こがね村店の物語が進行していきます。