経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『Hello, CEO』 - ごく平凡な青年がベンチャー企業のトップに

「会社のトップを扱った作品」の第四弾は、幸田真音『Hello, CEO』(光文社、2007年)です。潜在的な力を持ちながらも、ごく平凡なサラリーマン生活を過ごしていた藤崎翔が、最年少ながら、ベンチャー企業最高経営責任者(CEO)に就任。果たして、会社はどのように動いていくのでしょうか?  先に紹介した三つの作品では、大企業におけるトップの資質・条件が扱われていました。それに対して、今回はベンチャー企業におけるトップについて考えてみたいと思います。著者の言葉を借りれば、「資本金なんて、いまは1円あれば設立できるのよ。冷静な頭脳と、熱いハートとなにより一歩前に踏み出す勇気さえあれば、会社なんて誰にでも作れる時代」なのです。なにか新規に事業を始めたいと思いながらも、どうやって始めれば良いのかがわからない人には、導きの書になるのではないでしょうか! 

 

[おもしろさ] トップに求められること

本書の特色は、心の準備ができないまま、CEOになった若い社長が苦労を重ねながらも、一人前のトップに成長していくプロセスを描いている点にあります。そして、会社のトップに求められる資質・やるべきことが随所で指摘されているのも、読みどころと言えるでしょう。「まずは過去を知ること。それから次に、現在の状況を公正に把握して、認識すること……。そういうプロセスをきちんと踏んでこそ、はじめて将来の数字がはじき出せるんだ……。ものすごく当たり前のことのように聞こえるけど、そういう基本をきちんとやらない人間が多すぎるんだ。こういうことを真面目にやらずに、単なる思い込みで将来をはじき出そうとすると、とんでもない間違いを犯すことになる」。「どんなに奇抜なアイディアや、荒唐無稽な考えでも、まずは口にしてみることが大事なんだ。そこからなにかが始まるかもしれない……。自分で自分に決して枠をはめないこと。やってみる前に限界を設定しないこと」。

 

[あらすじ] 大手カード会社のリストラ組が創設した新会社

アメリカに本拠を置く大手クレジット・カード会社「メトロポリタン・エキスプレス・カード」の日本法人に勤務する藤崎翔27歳。「手抜きをしてきたつもりはないが、周囲と較べて、真面目一筋ということもなかった。そもそも、その日の仕事をこなすだけで精一杯だし、それで十分だと思ってきました」。やがて、本社の組織改革・リストラ計画が実施。現地法人の日本人社長(支社長)の宮脇寛治と対立していた上司の早坂圭一郎・マーケティング部長が退職を決意します。会社の早期退職プログラムが発表。支社長の態度に腹を立てた翔は、早期退職の申請用紙になんとなく必要事項を書き、これもまたなんとなく提出。その後、早坂が中心となって、同社を辞めた有能な人間を結集し、7名で新しいカード会社を創設。掲げたのは、「既成の概念から抜け出した会社」でした。そして、最年少でありながら、なぜか翔が新生「エキノックス社」のCEOに。斬新なアイディアがドンドン出てきて、新会社はスタートするのですが……。