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『ホテル・コンシェルジュ』 - コンシェルジュは名探偵

「ホテルコンシェルジュを扱った作品」の第二弾は、門井慶喜『ホテル・コンシェルジュ』(文春文庫、2015年)です。「ホテルポラリス京都」が舞台。そこに長期滞在している大学生の桜小路清長が持ち込んでくる厄介ごとの数々に、コンシェルジュの九鬼銀平とフロントの坂名麻奈が挑み、「名探偵」の如く解決するという連作短編集。

 

[おもしろさ] 個人や家庭内の問題まで持ち込む宿泊客

コンシェルジュのお仕事は、ホテルの宿泊客が快適に過ごせるよう要望を聞いてお手伝いをすること。普通は、ホテル近辺の案内やお店の紹介、チケットの手配といった業務がメイン。ある意味、業務としては簡単なものばかりと言えるかもしれません。ところが、本書に登場する小路清長は、「客の要望を聞く」というところを拡大解釈し、彼自身の問題やさらには家庭の問題まで九鬼のところに持ち込んでくるのです。上得意客なのでむげにすることはなかなかできません。九鬼と麻奈は、その都度、解決に協力することになるのです。本書の特色は、その二人が清長の無理難題とも言える問題をどのようにして解決していくのかというストーリー展開のなかで、コンシェルジュとして成長していくための資質にも言及している点にあります。

 

[あらすじ] 「仏像が盗まれたので、取り返してほしい」

明治以来多くの重要人物を輩出してきた旧財閥家として知られる桜小路家。その御曹司である桜小路清長が、ホテルポラリス京都のエグゼクティブスイートに長期滞在しています。ある日、九鬼は、彼から「叔母さんが大事にしている仏像が盗まれたので、取り返してほしい」という妙なリクエストを受けます。そこで、九鬼は、フロントで働き始めた新人の坂名麻奈にも協力を仰ぎ、真相解明に乗り出すことに。それは、優秀ではあるものの、「まじめすぎている」麻奈を良きホテルウーマンに育てるため、経験を積ませようという気持ちから発していたのです。また、腕に覚えがある九鬼にとって、簡単な業務ばかりの毎日に、満足しきれていない面があったのかもしれませんが。かくして、九鬼と麻奈が、清長の持ち込んだ厄介ごとを依頼主が納得のいくような形で解決していくのです。