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『ハラスメントゲーム』 - ハラスメント事情の最前線! 

「会社のトラブルを扱った作品」の第二弾は、井上由美子『ハラスメントゲーム』(河出書房新社、2018年)です。マルオーホールディングス本社のコンプライアンス室長に任命された秋津渉が、唯一の部下である高村真琴とともに、セクハラ、パワハラなどの難問解決に挑みます。ハラスメント事情の最前線を理解できるコンテンツになっています。2018年10月期にテレビ東京系「ドラマBIZ」で放映された『ハラスメントゲーム』(主演は唐沢寿明さん、出演は広瀬アリスさん)の原作。

 

[おもしろさ] 50代男性と20代女性の間には驚くほどのズレが

本書のおもしろさは、50代の男性・秋津渉および20代の女性・高村真琴という二人の人物を登場させ、高津の等身大で、ストレートな目線・言動がハラスメントに該当するかどうかを、高村の目線で明らかにしている点にあります。おそらく高津ぐらいの年代の男性であれば、ごく普通に使っている表現・言い方のなかには、相手を不愉快にさせる可能性のあるものが多く含まれており、それらはハラスメントに当たると指摘されているのです。いくつか例を挙げてみましょう。「25を過ぎているのに」。「気の利いた返しもできないような女はいらないんだよね」。「真琴ちゃんか。よろしくね」。握手を強要する。育てたくて言った「絶対に諦めるな、食らいつけ」という言葉。「辞めてもらう」……。また、社内で、同僚に対して「お前」や「あんた」と呼べば、ハラスメントになるかもしれないと考える人でも、「○○君」という呼び方もまたNGだとは思わないかもしれません。でも、気を付けた方がよいと諭される高津は、つい「えらい時代だなあ」と思ってしまうのです。

 

[あらすじ] 「フレッシュで美しいコンシェルジュ」にご注意! 

かつては東京本社の中枢である店舗開発部の部長として、業界では少しは名の知れた存在であった秋津渉53歳。ところが7年前、丸尾隆文社長から疎まれて左遷され、マルオースーパー・富山中央店の店長に。ところが急遽、東京本社のコンプライアンス室長に異動することに。同社お客様相談室に寄せられたクレームと、「パワハラをやめないと、マルオースーパー全店舗に制裁を与える」という匿名の若い女性から練馬店への電話に関して、真相解明と早期の鎮静化を意図して、秋津が呼び戻されたのです。彼と高村真琴は、顧問弁護士の矢澤光太郎とも連携しながら調査を開始。そして、練馬店の売り場主任である佐々部幸弘が仕組んだ事件だったことを突き止めます。秋津の申し出を受け入れた丸尾社長は「事件を公表する」ための記者会見を実施。ただし、佐々部の犯行については、伏せられた形での公表となったのです。事態をうまく乗り切った秋津は、丸尾社長から「脇田常務のハラスメントについて調査してほしい」と依頼されます。社長の「密命」への返事を保留にした秋津の元に、また新たな問題が。それは、オープン三日前の品川インターナショナル店で、店長の松本幸太が大きく動揺しているという情報でした。「丸尾社長によるセクハラ」を受けて、18名のパート職員全員から「辞めさせてもらいます」と告げられたからです。なぜならば、丸尾社長が品川店オープンに関するPR用のインタビュー映像のなかで使った「フレッシュで美しいコンシェルジュをご案内に置きました」という表現や、「生活に疲れたようなパートのおばさん」という言葉に反応したためだったのです。果たして、秋津のアクションは?