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『学校のセンセイ』 - 高校教師の右往左往! 

教師モノのドラマや小説の主人公。連想しがちなのは、ヒーローのような活躍とか、頼りがいのある「先輩」とか、品行方正な人格者とか、「教師=尊い職業」といった考え方ではないでしょうか? しかし、教師もまた人間。生徒との距離感がわからなかったり、仕事が面倒だと思っていたりする人がいてもけっして不思議ではありません。実際の胸の内は、悩んでばかりのごく普通の人たちなのですから……。今回は、そんな等身大の高校教師が右往左往する姿を気負いのないタッチで描いた作品を二つ紹介します。

「高校教師を扱った作品」の第一弾は、飛鳥井千砂『学校のセンセイ』(ポプラ文庫、2010年)。なんとなく高校の社会科教師になってしまった桐原一哉。行動原理は「面倒くさい」。適当に「教師稼業」を務めているところがあります。しかし、なぜか問題を抱えた生徒・教師・友人たちがさまざまな面倒を彼のもとに持ち込んできます。

 

[おもしろさ] 教師桐原の胸の内

生徒たちへの対応は教師の務め。そのことはわかっていても、生徒=子どもたちへの対応を「嫌なんです。面倒くさいんです」と言う桐原。それに対し、同僚の溝口は、「じゃあ教師を辞めなさい」と答えます。心の中で言葉を探す桐原。「そうだよなあ。でも辞めない。俺は多分。だって、この仕事向いてねーよなぁと思いながら、でも転職も面倒だしなぁと思いながら、他にやりたい仕事もねーしなぁと思いながら、結局たいして好きでもない仕事をずるずる続けてるヤツなんて、世の中にいくらでもいる。っていうか、全然普通だろ、それ。『俺、この仕事楽しくてしょうがないんだよ』……。そんなヤツいねーよ、一人も。でもみんな、なんだかんだで続けてるだろ。仕事しないと食ってはいけないもんな。同じだよ。俺だって。教師だからって、俺だけ辞めなきゃいけないことないだろう」。でも、そんな彼でも、人間として持っている倫理観というか、義務感というような気持ちは持ち合わせていたのです。「ああやって相談に来られた以上、何もしないわけにはいかない……。なんとかするか」といった具合に。本書のユニークさは、そうした気持ちを持ちながら、教師の仕事をしている桐原の心の内と行動を赤裸々に描き出している点にあります。

 

[あらすじ] 教師桐原の日常

大学を卒業してから2年間、地元の埼玉で塾の講師を経験したあと、教員採用試験を受け、名古屋の私立高校に勤務して2年目の桐原。今年から、永野先生が担任の2年生のクラスの副担任となり、やはり彼女が顧問をしている男子ハンドボール部の副顧問になりました。永野先生は、年齢は一つ下。でも、教師としては先輩格。自分のことを「キングオブ面倒くさがり」と自認している桐原は、永野先生のことを「キングオブ真面目」と呼んでいます。二人の間では、遠慮もあって、いつもギクシャクした会話になってしまいがち。職員会議、三者面談、ホームルーム、部活、生徒たちのケータイ問題と校則、さまざまな生徒たちとの交流・会話など、桐原の教師としての日常が描かれていきます。