経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『空ガール!』 - CAというお仕事のイメージと現実

「空のお仕事を扱った作品」の第二弾は、CAを素材にした浅海ユウ『空ガール! 仕事も恋も乱気流!?』(マイナビ出版ファン文庫、2016年)。華やかなイメージに憧れ、日本国際航空に入社して7年目となる、アラサーのCA(キャビン・アテンダント)鳥居紗世。この仕事が嫌いなわけではありません。それでも、「ワクワク感ややりがいはすっかり薄れて」しまい、「自分がCAに向いているのかどうか、わからなくなって」います。そんなさまよえるCA・紗世の目線で、CAの職場・仕事・業界用語・恋・ファッションが描かれています。

 

[おもしろさ] 機上のみならずフライト前も、CAは大忙し

本書の一つ目の魅力は、フライト前と機上にあって、CAたちはなにを考えているのか、彼らにどのようなことが起こりえるのか、またそうしたとき、どのように対応するのかという視点から、CAという仕事の流れを読者に伝えている点です。二つ目の魅力は、主人公である鳥居紗世というアラサー女性の、CAという仕事との向き合い方と心の変化がクリアに示されている点にあります。

 

[あらすじ] 「マニュアルにないセリフを言うのは百万年早い」

日本国際空港乗務員用更衣室にあるロッカーの扉についている小さな鏡を覗き込んだ鳥居紗世。「ああ……。今日も目が死んでるよ」。社員用コードを入力して得られるフライト・インフォメーションで、サポートの必要な乗客、機材の種類、駐機場、ゲートなどをチェック。さらに、一緒にフライトする客室責任者(CP)がだれかを確認。担当者がだれかによって、「フライトが楽しいものになるか、緊張感に満ちたものになるかが決まる」からです。今日のチーフは荒木慶子41歳。美人ではあるものの、「般若様」(怒ったときの顔が般若のお面そっくりであることに由来している)という別名の持主。紗世は憂鬱な気分に。「荒木CPは、完璧なCA像を追求している。もちろん、部下のCAにも彼女が求める理想を押し付けるため、彼女の指導はとても厳しく、些細なミスも見逃さない」と言われています。そんな荒木から、新入社員夏目航の指導をしてほしいと命じられた紗世。夏目は、CAの卵ではなく、幹部候補生。日本国際航空では、総合職で入社した新入社員には、必ず客室業務やカウンター業務、営業業務などを経験させているのです。アシスタントパーサーによるフライトの説明(旅客機はエアバス380、CAは13人、羽田―新千歳―羽田-福岡(一泊)-羽田という航行ルートなど)のあと、CAに対して恒例のエマージェンシーに関する「一問一答」が行われます。「ハイジャックの時の対応」について質問された夏目は、客室乗務員マニュアルとは関係なく、彼の持論をとうとうと披露。クルー全員が驚き、呆れかえってしまいます。紗世が聞いたところ、夏目は、マニュアルを読んでこなかったわけではありません。すべて頭の中に入っているのです。むしろ、「一問一答は実際に目の前で事故や事件がおきているぐらいの緊張感をもって、リアルにやるべきです」と夏目。「この子、なに様なの?」と、紗世は心の中で思わず叫びました。同じようなことは、そのあとも続いたので、「マニュアルにないセリフを言うのは百万年早い」と言い放ったのです。しかし、離陸後、夏目と接していると、「純粋で、いいヤツ」と思えるようになっていきます。実際、彼に機内販売をさせたところ、意外なことに、カートの賞品が次から次へと売れていくではありませんか。なぜなのか? それは、「他人の気持ちを自分自身のことのように受け止める性格」というか、「お客様の気持ちに寄り添える」人柄の良さが乗客にも伝わるからではと思えるようになっていったのです。やがて、夏目がまさに「サラブレッド」だったことが判明……。