経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『小説 若おかみは小学生!』 - 誰も拒まない。受け入れ、癒してくれる「春の屋旅館」

「旅館の女将を扱った作品」の第二弾は、令丈ヒロ子(原作・文)、吉田玲子(脚本)『若おかみは小学生! 劇場版』(講談社文庫、2018年)。交通事故で両親を亡くした小学校六年生の関織子(通称おっこ)が祖母の営む温泉旅館「春の屋」で若女将として修業するという話。2018年9月21日に公開された、劇場版『若おかみは小学生!』を原案として、著者が書き下ろした小説。なお、2003年~2013年に講談社青い鳥文庫から刊行された「若女将は小学生!」シリーズは全20巻。短編集は全4巻。2018年4月8日~9月23日には、テレビ東京でアニメ『若おかみは小学生!』(全24話)が放映されています。

 

[おもしろさ] 「ファンタジー」と「お仕事小説」の共演

「春の屋」旅館の若おかみになったおっこ。彼女にしか見えない「ユーレイ友達」(ウリ坊、美陽ちゃん)と「小鬼」(鈴鬼くん)、「ピンクのふりふり」を略して「ピンふり」と称されている秋野真月(花の湯温泉街で一番大きい秋好旅館の一人娘)をはじめとする小学校の友人たち……。本書の特色は、ファンタジーの要素を加味しながら、彼らの支えを通して、旅館の若おかみとしてのおっこの成長過程と、旅館の女将という仕事について知ることができるようになっている点にあります。着物を着たときの歩き方や姿勢、食事の運び方、草履の脱ぎ方、掃除の仕方などから始まり、「誰も拒まない、全てを受け入れる」という花の湯温泉全体のモットーを、個性の強いお客さまと接するなかで実践していくことに至るまで、若女将としてのさまざまな業務や作法が綴られていきます。

 

[あらすじ] おっこ + ふたりのユーレイ + 小鬼

両親の生まれた街である花の湯温泉。「野生の動物たちが湯に浸かってけがを治しているのを見たご先祖様が、生活に取り入れたのが始まり」。「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない。動物も人間も……すべてを受け入れて、癒してくれる」のです。春の屋旅館は、その一角を占める小さな旅館(木造で、客室5部屋)です。今日は、神楽を舞う子を見ようとたくさんの人が集まる「梅の香神社のお祭り」の日。しかし、東京に帰る際、一家は交通事故に遭い、両親は死亡。ウリ坊に助けられたおっこだけが、ケガひとつしなかったのです。おっこは、70歳になる祖母の峰子が経営する春の湯旅館に住み、若おかみとしての修業をスタート。きれいに手入れされたお庭、お風呂、板前の康さんが出してくれるお料理……、遊びに来るには最高の場所に違いないのですが、虫やトカゲが大の苦手。しかし、「ユーレイ二人」と「小鬼一匹」たちにも助けられて、おっこは、少しずつ若おかみとしての力量を高めていくことに。