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『次回作にご期待ください』 - 漫画業界の実態 + 漫画誌編集者のお仕事

「編集者を扱った作品」の第三弾は、月刊漫画誌の編集者を素材にした問乃みさき『次回作にご期待ください』(角川文庫、2018年)。漫画誌の若き編集長・眞坂崇と同期の編集者・蒔田了の物語。編集長という名の管理職に抵抗感を持っている「お人好しの眞坂」。他方、漫画に対する「情熱の温度が沸点を越えている」「破天荒で、トラブルばかりを引き起こす蒔田」。両者のコントラストとコラボがリアルに描かれています。漫画業界の実態、漫画誌の編集者と文芸編集者の仕事内容の違い、「漫画家の生態と深層心理」がよくわかるお仕事小説! なお、「次回作にご期待ください」とは、漫画の最終回最終ページに登場する「定番の文句」。

 

[おもしろさ] 作画ソフトでも「画に命、魂が宿る」作品はできる?!

本書の魅力は、漫画業界のいくつもの特徴が浮き彫りにされている点にあります。一つ目は、連載漫画はほかのエンターテインメントと大きく異なり、その多くが、尺や期間を決めないままスタートすること。読者に求められれば、いつまででも連載を伸ばせる。逆に、求められなくなったら、すぐに打ち切られてしまう。数ヶ月で終わるものがある一方、何年も続く作品もあるのは、そのためです。二つ目は、にもかかわらず、「連載前提の作品で審査される新人賞がない」こと。「新人賞のほとんどは、数十枚の読み切り形式で募集」されています。それゆえ、全体的にレベルは上がってはいるものの、「こじんまり」している感がぬぐえません。三つ目は、小説では持ち込みを受け入れている出版社はほとんどないのに対し、漫画界では、原稿持ち込みが昔からのやり方になっていること……。四つ目は、「おもしろさ」を追求するなか、続きを書けなくなってしまった漫画家たちの苦悩を浮き彫りにしていること。五つ目は、人工知能が応用された作画ソフトの導入によって、紙・鉛筆・インク・つけペンを使わなくても漫画が描けるようになったものの、「漫画創りのクライマックスであるペン入れをコンピューターに丸投げしたら、何が楽しくて漫画を描いているのかわからない」、あるいは、「画に命、魂が宿る」作品と呼べるようなものにならなくなるという懸念が生じていること。

 

[あらすじ] 眞坂と蒔田の、なぜか絶妙なコラボぶり! 

漫画専門の出版社「エージーナム出版」で『月刊ゼロ』の編集長を務めている眞坂崇34歳。同誌は、少年誌、青年誌、少女誌というように年齢や性別を限定しない「新しい漫画誌」をめざしています。崇が編集長になって4年。メンバーは、「困ったヤツらばかり」。なかでも、「漫画に関して絶対に嘘もおべっかも言え」ず、おもしろさを生み出すことしか頭にないため、トラブルを起こしてしまう蒔田の「困った度」は、想像を絶するレベルです。でも、眞坂と蒔田のふたりは、なぜか絶妙なコラボぶりを発揮していきます。