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『無印OL物語』 - 問題を巻き起こすOLたち

会社という組織では、多種多様な人間が一緒に働くことになります。少なくとも勤務時間内においては、協力したり、分担したりして業務を遂行することが求められます。でも、職場を構成する人たちの性格・考え・体調・家庭環境は、まさに千差万別。たとえ表面的には、うまく協働が行われていたとしても、内面にまで踏み込んでいきますと、個々人は、それなりの不安やストレスを抱えているのが常ではないでしょうか! 職場での人間関係には、いつも意思疎通・反撥・妬みなどの「悩みのタネ」が転がっているのです。それらのほとんどは、子細な出来事にすぎないかもしれませんが、各個人においては、それなりの「事件」といっても過言ではないように受け止められることがしばしばです。今回は、「職場の人間関係」を扱った二つの作品を紹介します。

「職場の人間関係を扱った作品」の第一弾は、群ようこ『無印OL 物語』(角川文庫、1991年)。OLたちの「職場の日常」を描いた12の短編の物語。当人はまったく気づいてはいないにもかかわらず、周囲の人間は、腹を立てたり、驚いたり、呆れたりさせられるようなOLさん。どの職場にもいるのではないでしょうか。そんな「悩まない OLさん」の実像を、「悩みながら観察している人」の目線で描いた作品です。 初刊本が出たのが1989年。その時代の「OL像・OL観」が浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] 「悩まないOL」に「悩まされる人」

本書に出てくるOLたちは、かなりユニークなキャラの持主ばかり。ニ、三紹介しますと、①本人は、一生懸命やっているつもりでいても、間違いばかりして、周りをイライラさせ続けている。②「お嬢さん」のイメージがあるOL。会社の男性社員からは、いつもチヤホヤされていたに、結婚するなら、ホドホドの人がいいという本音の言葉を聞かされ、ショックを受けてしまう。③部長のタシロと平社員のイソベを生理的に受け付けないようになってしまった私とハルミちゃん。ふたりとも新しくできる営業所への異動が決まって喜んだのもつかの間、なぜか、同じ営業所に配属されることに……。本書の特色は、そうした「問題OL 」が職場で引き起こす波紋の数々、それを見つめる人たちの心の中で生じる「怒り・驚き」や「実際の行動」などがどういうものなのかを明らかにしている点にあります。

 

[あらすじ] 「職場の日常」と「社員の心のなかの非日常」

「あんぱんとOL」に登場するのは、総勢7人の出版社「まんまる社」で働いている41歳のシノハラさん。「同じ間違いを何度も何度も繰り返してくれる」。彼女が後輩だったら、「あんた何度いったらわかんのよ。ちょっとしっかりしてよ!」と言って、「頭のひとつもハリとばせる」のに、シノハラさんは先輩なので、腹のなかは煮えたぎりながらも、26歳のわたしは、「気をつけてても、そういうことってありますよね」などと言わなければなりません。果たして、シノハラさんと私は? 「新人チェック」の舞台は、PR誌とか社内報の編集に携わっている社員4名の編集プロダクション。53歳の女性社長とソリが合わず、社員の定着率は最悪。入社して12年目のわたし(オカダ)は、入ってきては辞めていくという状況下で、やっと1年間勤続しているOL のヤマモトテルコさんとの接し方で悩まされています。ヤマモトさんは、良く言えば「物怖じしない元気な子」。しかし、いつまで経っても、けっして自分からは動こうとしません。また、電話の応対も,「アベはまだ出社していません」というべきところを「アベはまだ出世していません」と言う始末。得意先の会社の人であっても、「社長? さあ、いつ来るかわかりませんねえ」と、ぞんざいな口のきき方を。どうするオカダ? ちょっと度が過ぎているかもしれないものの、特定のOL が醸し出す「職場での日常的な景色」かもしれない部分と、それにかき乱される周囲の社員たちの心のなかの「非日常」を描いた12話が収録されています。