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『僕は明日もお客さまに会いに行く。』 - メンターが伝授したもの! 

「営業部員を扱った作品」の第二弾は、川田修『僕は明日もお客さまに会いに行く。』(ダイヤモンド社、2013年)です。5年間営業の仕事をやっていたにもかかわらず、根本的なことをわかっていなかった主人公の三井総一郎。メンター制度によって、伝説の営業マンと言われている山野井のアドバイスを受けることで、日々変身していく様子が克明に描かれています。外資系生保のトップセースマンであった著者が自らの経験に基づいて著した「ノウハウ小説」。

 

[おもしろさ] 仕事をする上で大切な「根本的なこと」

営業マン向けの本は、実にたくさん刊行されています。「営業テクニック」「営業トーク」「説得術」「心をつかむ方法」「ヒアリングの仕方」「断られない営業」「成功の法則」など、どれも内容的にうなずくものばかりです。でも、それを読んだからといって、また実践したからといって、「結果が出ました!」という声は、残念ながらほとんど聞いたことがありません。なぜなのでしょうか? それは、お客さまと接する上で、いや、仕事をする上で大切な「根本的なこと」が欠けているからなのです。以上は、本書の冒頭に記された著者の言葉です。本書の特色は、小説仕立てで、著者が考える「根本的なこと」が明示されている点にあります。具体例をいくつか示しますと、①「どうなりたいのかを考える」。②「できるわけないと考えない」。③気分転換と意識の切り替え。④顧客に必要がないものは売らない。⑤聞くのが8割、話すのが2割。⑥お客様を好きになる、役に立てる、応援する。

 

[あらすじ] 「自分のことしか見えていなかった」営業マン

生命保険会社に勤務する三井総一郎27歳。同社では、1年間の営業成績に基づいて、全国およそ2000人の営業マン全員に順位が付けられます。トップテンにランクされた成績優秀者は、表彰式で、壇上に上がり、賞状とトロフィーが授与されることになっています。入社して3ケ月目に見た表彰式に感激した彼。「翌日から、強い意気込みで仕事に臨んだ。先輩の指導を素直に聞き、やってみろと言われたことはすぐになんでもやった。話題になったビジネス書はすべて買い込み、異業種交流会の情報も調べた。でも、自分の意思はそんなに強くなかった。表彰式で誓った決心は、そう長くは続かなかった。実績は、なかなか上がらなかった。現実はそう甘いものではない。そう悟った」。ある月曜日の朝のミーティングでのこと、メンター制度(年間トップを獲得した優秀な営業マンが各支社の営業マン一名を4週間マンツーマンで指導し、指導された営業マンのスキルアップを狙う取り組み)に基づき、山野井という42歳のトップセールスマンが三井のメンターになることに。正直言って、「面倒なことに巻き込まれた」と思ったものの、「これから一カ月間、ご指導よろしくお願いします」と、精一杯の丁寧な挨拶をした三井。こうして、メンター同伴での三井の営業活動が開始。初めて一緒に赴いた訪問先で、決まると思っていた商談は、決まりません。後で考えると、「見えなければいけないことが何ひとつ見えていなかった。いや、自分のことしか見えていなかった」のでした。