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『国防特行班E510』 - 諜報の世界に投影される日米関係

諜報機関を扱った作品」の第二弾は、神野オキナ『国防特行班E510』(小学館文庫、2021年)。「日本にとって最も逆らいたくない同盟国」であるアメリカ。日本のどの諜報機関アメリカを相手にすることは、ほぼ想定外。日本の情報は、すべてアメリカに渡されているにもかかわらず、それでもなお、日本に諜報員(スパイ)を送り込んでくるアメリカ。その理由は? またなぜそのスパイが殺されたのか? そうした謎の解明に当たるとともに、対抗策を講じ、戦う実行部隊として極秘に創設されたのが、「公安・自衛隊防諜特例行動班E510」。本書は、そのリーダー格であり、数年前に「死んだはずになっている」三輪出雲一佐と、公安警察の「ゼロ」と呼ばれている非合法部署の班長荻窪冴子の暗躍を描いた作品。

 

[おもしろさ] 諜報機関の現況、諜報員の組織と仕事

本書の特色は、諜報機関の現況、諜報員の組織と仕事に関する叙述が随所に登場することにあります。いくつか例示しましょう。①公安調査庁の弱体化、内閣情報調査室の機能の独立性の低下という事態を背景に、「情報共有という名目で情報および諜報活動の情報を共有協力するという集まりが有名無実化しつつある今、公安、防衛省、外務省は互いに脚を引っ張らぬよう、そして同時にいつでも引っ張れるように三すくみの状態になりつつある」。②諜報員たちは、管理者(スパイマスター)のもと「細胞」(セル)方式の中に組み込まれるのが基本。それは、「個人的なことも含め、情報部員同士の直接的な上下左右の意繋がりを持たず、数名の人間を間にはさむことで、ほぼ孤立した状況で機能する方式」ということになる。③銃撃戦のあと、残された薬きょうや弾丸から足がつかないように、後始末を徹底させる。証拠を残さないように、家を焼いたり、目撃者を殺したりすることも。

 

[あらすじ] 防衛省公安警察の微妙な距離感

4年前、南アフリカの小さな国、ヴィダムナの日本大使館で「防衛駐在官」として働いていた三輪出雲。アメリカ大使館に勤務し、アメリカ中央情報局CIAの駐在武官に任じられているキリアン・クレイとは、気楽に話をする関係を築いていました。ところが、出席していたパーティ会場で謎の襲撃事件が勃発。周囲には、三輪が「殉死した」と思われました。しかし実際には、記憶を失い、アフリカの裏社会で生きていたのです。現在は、防衛省内の「不祥事」を始末する専属の「自衛隊第三特殊情報偵察評価群・510臨時特別行動班」の「常に冷静沈着、勇猛果敢な隊長」として班員たちを統率しています。その日の任務は、統合幕僚監部に潜り込ませていたスパイ(エス)が自ら出頭と保護を願い出ているのを受け、三輪たちは、そのエスを保護しに行くというものでした。ところが、現場に赴くと、保護すべき男はすでに殺されていました。そして、目の前に現れたのは、荻窪冴子でした。互いに銃を構え、にらみ合うなか、突然、屋外から火炎瓶を投げ込まれ、狙撃が加わることに。果たして、その犯人は?