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『お悩み相談室の社内事件簿』 - 持ち込まれるちょっと不思議な相談事の真相

「相談室を扱った作品」の第二弾は、浅海ユウ『お悩み相談室の社内事件簿 会社のトラブルすべて解決いたします』(マイナビ出版ファン文庫、2019年)。総合商社「高岡物産」で、総務部が管轄する「お悩み相談室」の主任として異動することになった松坂紫音。相談室で成果をあげ、営業一課の課長に返り咲こうと頑張り、もち込まれた相談案件のウラに隠された真相を明らかにし、持ち前のバイタリティで解決していこうとします。

 

[おもしろさ] 相談室への異動:ビフォー&アフター

おもしろかったのは、紫音に関わる二つの点です。一つ目は、ちょっと不思議な相談者の悩み事を、それこそ「全知全能」の精神で解決策を探そうと模索するプロセスにあります。ここまでやるのかという驚きとともに、相談員の相談事との向き合い方で導き出されるある種の方向性に読者も気づかされるのではないでしょうか! そして、二つ目は、相談室に異動する前(ビフォー)と異動後(アフター)の変化についての描写にあります。まずは「ビフォー」。生まれてから18歳になるまでアメリカで過ごした紫音は、自己主張が強く、部署内の忘年会やリクレーションなどには一切不参加。プライベートで話す機会も皆無。そのうえ、「部下たちを一つの塊としてしか見て」おらず、「その塊は最初から優秀であって当たり前。私の仕事はその優秀な塊をいかに効率よく動かし、管理するかだと思っていた。その塊に属せない人材は要らない」とさえ、考えていたのです。ところが、「アフター」においては、紫音の心のなかに、自分の言動を反省したり、ウジウジ考えたりする場面が出てくるようになります。さらには、素直に話ができるようにも。ひと言で言うと、「ちょっと人間的に」。そんな変化が起こってくるのです。

 

[あらすじ] 営業一課の課長に返り咲きたいというモチベーション

総合商社「高岡物産」の営業課長としてバリバリに仕事をこなしていた松坂紫音。大きな戦力にはなっていたのですが、ストレートな物言いで、部下の信頼を得ているとはけっして言えませんでした。しかし、大きなミスをしてしまい、総務部が管轄する「お悩み相談室」の主任として異動することに。そこで出会った面々は、彼女には、「仕事」をこなしているようには思えず、仕事力も低いと判断せざるを得ない人たちばかりでした。彼女は、彼らに対して「軽蔑」の眼差しを向けたことでしょう。とはいえ、そうした環境下でも、持ち前のバイタリティは不変。なんとしても、相談室で成果をあげ、営業一課の課長に返り咲きたいというモチベーションのもと、もち込まれた相談案件を解決していきます。