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『リーダーはじめてものがたり』 - チームリーダーの諸条件 

会社や組織で、数年間働くと、常設部署の「長」は時期尚早だとしても、特定のプロジェクトチームなどのリーダーを任されることはまれではありません。なかには、それまでチームやグループを引っ張るという役回りなど演じてこなかった人がたくさんいます。自分自身の仕事にも自信があるわけではないうえに、チームを引っ張っていくことが求められる。プレッシャーや不安感は、相当なものに違いありません。他方、実績を評価され、チームリーダーになる人もいることでしょう。そうなった場合でも、戸惑いや不安に直面するのが普通です。なぜならば、「一人で仕事を組み立てる場合」と「チームで仕事に取り組む場合」、求められる課題は明らかに異なってくるからです。では、そのような場面に遭遇した場合、どのように対応していくのでしょうか? 今回は、チームリーダーになったとき、おおいに参考になる作品を二つ紹介したいと思います。

「チームリーダーを扱った作品」の第一弾は、播磨早苗『リーダーはじめてものがたり』(幻冬舎、2010年)。若くしてトップセールスマンの座をつかみ取り、念願のチーム長に抜擢された池田毅一(通称キー坊)。待っていたのは、メンバーたちの「総スカン」「反感むき出し」の態度でした。そんな彼が少年野球の女性監督・小野さとみ(女性なのに、通称おっさん)のアドバイスを得ながら、最高のチームを作り上げていきます。著者はコーチングのプロ。目からウロコのビジネス小説。

 

[おもしろさ] 「みんなが自分とおんなじやて思ってる」

本書の魅力は、「優秀なセールスマン」であったとしても、そのままでは「優秀なチームリーダー」にはなれないことや、チームリーダーとして成長していくには、なにが必要で、具体的にどのようなことを実践していけば良いのかを、わかりやすい言葉で解説している点にあります。印象に残る言葉もいろいろです。「仕事やゆうたかて、みな自分がかわいいんや、自分が優先順位一位や。だから頑張れる」。「ナンモせんと部下が変わること期待しとっても部下は変わらんよ。変わるなら自分自身や」。「みんなが、自分とおんなじやて思ってることもキー坊のあかんとこやねん」。「困難があったら『成長』のチャンスや」……。

 

[あらすじ] ありがちな思い込みと現実とのギャップ

若くしてトップセールスマンの座を築き上げ、西東京支店から城南支店に異動し、社内で最年少のチーム長となった池田毅一。上司と顧客には評判が良かったものの、ほかのメンバーや同僚・後輩たちには悪い印象しか持たれていません。でも、「いつかチーム長になったら、こんなチームを築こう!」という思いを持っていました。メンバーは、「オレのことを、羨望と尊敬の気持ちで迎えるだろう。若くしてトップセールスの座を築き上げたオレのいうことは、何だって聴くはずだ」という思い込みも。しかし、5名のメンバーの前で、「熱く語った」ものの、いずれも顔がこわばり、やる気が見えません。アドバイス役というべき、少年野球チームの監督に相談すると、「メンバーを自分の思い通りに動かそうとする傲慢さ」しか伝わらなかった、ほかの人をほめてやる気を出させていくという「承認力」が欠乏しているといったコメントをもらいます。悩みの谷底に落ちてしまったキー坊。しかし、彼は、そこから這い上がり、チーム長としての実力をつけていきます。