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『実録 頭取交替』 - 銀行を私物化。相談役の老害ぶり

「頭取を扱った作品」の第三弾は、浜崎裕治『実録 頭取交替』(講談社、2014年)。ある地方銀行を舞台に繰り広げられる熾烈な権力抗争が描かれています。著者は、山口銀行で新宿支店長、大阪支店長、北九州支店長、取締役宇部支店長などを歴任した人物。

 

[おもしろさ] 異例の出世! その原動力とは? 

本書のおもしろさは、甲羅万蔵という人物の生き様をリアルに描いている点にあります。彼は、昭和28年に日出製作所から、組合対策の責任者として維新銀行に転職。銀行内では異例の出世街道を歩き、頭取を経て相談役についても、依然として老害をまき散らし続けた人物です。彼を支えたのは、山上正代(第五生命保険会社のエグゼクティブクラスの保険外務員)という「愛人」と、「七人の侍」と称された取り巻き連中を中核とする「甲羅組」の存在でした。両者は、甲羅の世渡りを実現させる原動力となったのです。山上とは、かつて恋心を掻き立てられたものの、別離を余儀なくされたという過去がありました。甲羅は、「償いの代償」として山上の保険勧誘を支援し続けたのです。他方、山上の方も、甲羅に対しては、愛情のみならず、「七人の侍」たちの活動のための軍資金を提供し続け、さらには甲羅に敵対する者を味方につける際に大きな役割を演じたのです。

 

[あらすじ] すべては自分と愛人のために

平成25年秋、88歳になる甲羅万蔵は、維新銀行本店にある相談役室で大きなため息をつきます。甲羅にとって、維新銀行とその行員はすべて、自分と、山上正代のためにのみ存在するものにほかなりません。自分に逆らう者は徹底的に叩きのめすというやり方で通してきたのです。①前頭取の植木に対抗して、甲羅が卑劣な手法も駆使しながら自ら頭取の座を取りにいく過程、②頭取を退任した後、代表権を持たない相談役になりながら、責任を問われない形で、銀行の支配権を行使するという「院政」の仕掛け、③それに対する正義感に満ちた谷野銀次郎頭取の甲羅相談役に対する「反逆」と全面戦争への発展など、おもしろい描写が続きます……。そして最後にどんでん返しが! 

 

実録 頭取交替 (講談社+α文庫)

実録 頭取交替 (講談社+α文庫)