「職場の人間関係を扱った作品」の第二弾は、奥田英朗『マドンナ』(講談社文庫、2005年)。40代の男性課長5人の日常がユーモア溢れるタッチで浮き彫りにされています。その年代の課長と言えば、部長という上のポストを狙える位置にいるとはいえ、仕事のやり方では、部長とは異なった立場をとることもまれではありません。一方では、部下の統率にも注力することが必要。そのうえ、老いた親の世代や大人になりかけの子どもたちともうまくやっていくことが求められる世代。いろいろな意味で、人生の中間点を過ぎたという切ない思いをあわせ持った年代に属しています。登場人物の深層心理とその動きをリアルに描写する著者の力量には驚かされることでしょう! 中年サラリーマンには、「職場研究・観察」の参考書として格好の素材になりえる本です。
[おもしろさ] 男性のみならず、女性にとっても
課長たちの直面する悩み事は、まあよくあることばかりかもしれません。でも、当事者にとっては、まさに「一大事件」。彼らが悩んでいる姿は、同じような悩みを持っている男性にとってだけではなく、企業で働いている女性にとっても、大いに役立つ内容です。彼女たちが「男性からどのように見られているのか」がよくわかるからです。解説を書かれた酒井順子さんの言葉を借りれば、「『男性は、意外と私達のことをよくわかっているのかもなぁ』と、ちょっと怖いような気分にもなる、一冊」なのです。
[あらすじ] 上司・部下・家庭 - 課長の悩みは尽きません
5つの短編から構成される本書。登場する男性課長は次の5人です。①部下に恋をしてしまい、精神的に振り回されてしまう課長。②自分の流儀とペースを頑固として守り続けている同僚の課長とダンサーになりたいと言い出した息子に悩まされている課長。③出入り業者の過剰な接待攻勢をはねのけようと必死に抵抗する正義感の強い課長。④同年齢の女性部長が上司になり、改革を強行しようとする姿勢に反対し続ける課長。⑤再開発をしたものの、パティオを取り囲む店舗テナントは、いつも閑古鳥が鳴いているという実情を改善するために設置されたチーム内で、上司とのやり方の違いで悩むとともに、老いた父親とも距離感がつかめないでいる課長。