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『トヨトミの野望』 - グローバル自動車企業の光と影

「企業をモデルにした作品」の第四弾は、梶山三郎『トヨトミの野望』(講談社、2016年)です。1990年代以降にトヨトミ自動車がたどった歴史が描かれています。トヨトミ自動車のモデルと目されているのは、世界最大級の自動車会社・トヨタです。企業が大きくなるのは、さまざまな試練・壁を乗り越えていく必要があるわけです。トヨトミ自動車は、いかにして克服していったのでしょうか? 

 

[おもしろさ] 内幕も含めたトヨトミの「現代史」を満喫

JR名古屋駅前のトヨトミタワービル内大ホールでの緊急記者会見の席上、社長の豊臣統一が高らかに宣言しました。「トヨトミ自動車は2030年までにガソリンエンジンのクルマをゼロにします。すべて水素カーに替えます。……われわれに残された時間は14年。死ぬほど考え、死ぬほど努力して、必ず実現します 」と。それは、自動運転、電気自動車、水素自動車など、近未来の自動車をめぐる熾烈な競争がグローバルな規模で展開されているなかでの、トヨトミの不退転の決意表明です。自動車メーカーとしては、とてつもなくエキサイティングな意思表示と言えるでしょう。しかし、そこに至るまでには、ドロドロした人間ドラマがありました。読書の醍醐味を満喫できる作品です。

 

[あらすじ] 傍流・武田社長の剛腕 VS 創業家の思惑

物語は、1995年、愛知県に拠点を置く世界企業トヨトミ自動車の社長に武田剛平が就任した年からスタートします。外から見れば不沈空母のように見えるトヨトミ自動車にも、多くの課題がありました。が、社内の危機感は希薄でした。時に、武田は63歳、トヨトミのプリンスである豊臣統一・開発企画部次長は39歳でした。武田は、豊臣家とは血縁も姻戚関係もない生粋の使用人、しかも本流の自工ではなく、傍流の自販の出身者だったのです。にもかかわらず、彼は「わがトヨトミも変化しなければ生きていけない。前例、伝統、成功体験の墨守、憧憬は破滅への第一歩だ」と言ってはばからなかった。事実、武田のもとで、ハイブリッドカーの量産化が実現されるなど、多くの改革がなされていきます。しかし、武田のある言動が、統一の父である豊臣新太郎会長の逆鱗に触れます。その後、トップの座に就いた統一には、数々の修羅場が待ち受けていました。しかし、「進むも地獄、退くも地獄」という逆境のもと、徐々にリーダーとしての風格と自信をつけていきます。

 

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業