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『デッド・オア・アライブ』 - EVをめぐる異業種間での主導権争い 

地球の温暖化が深刻化し、脱炭素の流れが急速に進みつつある昨今、いま世界の自動車業界は大きく変わろうとしています。軸となるのは、ガソリン自動車に代わる次世代の環境対応車の開発です。想定されているのは、電気自動車(EV)、燃料電池車、ハイブリッドカーなど。しかし、ハイブリッドカーについては、近い将来、環境対応車として見なされなくなる可能性が指摘されています。というのも、すでにアメリカの一部の州とEUにおいては、遅くとも2035年までには、ハイブリッドカーを含めたガソリン自動車の新車販売の禁止が明言されているからです。したがって、次世代自動車の本命としてのEVをめぐる熾烈な開発競争が今後さらに激しいものになっていくのは、明らかなのです。EVの本体・電池・モーターなどの開発にあっては、自動車メーカーのみならず、電機メーカーなどに代表される多くの異業種企業や、さまざまなベンチャー企業を巻き込んだ展開が予想されています。自動車をめぐるドラスティックなパラダイムシフトが起きることになるのです。今回は、EVを扱った作品を三つ紹介します。

「EVを扱った作品」の第一弾は、楡周平デッド・オア・アライブ 』(光文社、2017年)。世界市場を舞台にして事業展開を図ってきた電機メーカー、市場をほぼ国内に特化した軽自動車メーカー、世界的な自動車メーカー、「製造を端から放棄し、知的財産権の使用で儲ける」というビジネスモデルを志向するベンチャー企業の四社。それぞれの思惑・構想を胸に秘めながら、対立・買収・協調が交じりあった関係を模索しつつ、未来をかけたEV開発に挑みます。

 

[おもしろさ] 抉り出される自動車業界の問題提起と論点開示

本書の特色は、上述の四社がそれぞれに固有の難問を抱えており、その克服手段としてEVにたどり着くまでのプロセスが克明に描写されるとともに、さまざまな問題提起と論点開示がなされている点にあります。例えば、①軽自動車の場合、平均走行距離は一日40キロ未満が90パーセントを占めており、フル充電で百キロ走れる性能を持ったEVであれば、いまでも充分にユーザーのニーズを満たすことができる。②中国が国策としてEVに注力しているのは、ガソリン車の分野では西側諸国に太刀打ちできず、むしろいち早くEV市場を確立することで、優位性を保持しながら世界市場に乗り出すことができるからであるだ。③膨大な下請け・孫請けの部品メーカーを傘下に抱え込んでいる自動車メーカーにとっては、ガソリン車からEVへのシフトは大きな制約を受けざるを得ない。逆に、弱小メーカーであるが故の「身の軽さ」が功を奏することもあり得る。④より高性能な電池が開発されれば、充電ステーション網さえ必要としない事態も起こりえる。⑤モデル地区を創ってEVを普及させ、その動きを全国へと広げていければ、EV量産化の見通しができる。⑥軽EVを軸にして、その先の普通車EVの普及をめざすという方向性もあり得る。

 

[あらすじ] 目標はEV! が、四社にはそれぞれの思惑が

日本を代表する総合電機メーカーであるコクデン。保守的な社風で、「社内カンパニー制」をとっていることもあり、各事業部同士の連携は希薄。巨額損失に端を発した、会社ぐるみでの不正行為に手を染め、壊滅的な危機に追い詰められます。そこで、新規の目標として目をつけたのが、高性能の新型電池を活用したEV事業です。経営不振にあえぐ軽自動車メーカーのイナズミもまた、新たな市場を求めて、EV 開発に動き始めます。さらに、いち早く燃料電池自動車(FCV)「アイ」を投入したものの、水素ステーションなどのインフラが未整備であるうえ、高額ゆえに伸び悩みが続いている世界的自動車メーカーのタカバ。同社の専務・野中俊郎は、次世代車としてEVを打ち出すことで社内のイニシアティブをとろうと動き出します。従業員数30名ほどのベンチャー企業であるミライモータースは、EVのプラットフォーム(オペレーションシステムやハードウエアなどの基礎部分)のみを開発し、その販売をめざしています。こうして、四社がそれぞれの思惑と構想を持って、EV開発に参入していくのですが……。