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『勇者は語らず』- 日本経済の「勇者」=自動車産業の戦後史

「自動車の歴史を扱った作品」の第三弾は、城山三郎『勇者は語らず』(新潮文庫、1987年)。自動車産業を戦後日本経済の「勇者」に見立て、その急速な発展ぶりが描写されています。特に、自動車を組み立てる親会社の成長が部品を供給する下請け会社の「犠牲」の上に成り立っているという視点が鮮明にされています。1983年に放送されたNHKテレビ放送開始30周年記念ドラマ「勇者は語らず」の原作本。三船敏郎NHKドラマに初出演。

 

[おもしろさ] あれよあれよと言っている間の急成長

第二次大戦が終わったころ、依然として「ひもじい生活」を余儀なくされていた日本人。その多くにとって、自動車などはアメリカなどから輸入するものであり、国内で自動車産業が発達するなど、ほとんど想像すらできませんでした。ところが、高度成長が終わったころには、アメリカに集中豪雨的な自動車の輸出が実施。「自分たちの職を奪った」日本車をアメリカ人がハンマーでたたき潰すニュースが紹介されるほど、自動車産業が発展していったのです。その成長ぶりは、あれよあれよと言っている間に、着ている服よりもどんどん背丈が伸びていってしまった子供の成長にも似たところがあるかもしれません。日本の自動車産業は、長い間、自らの力や位置をきちんと位置づける言葉をうまく見出せないまま、海外にも伸長していったのです。なぜか? それは、発展のスピードが極めて急速だったことに加えて、日本の自動車工業の発展を支えた条件の中には、「ジャスト・イン・タイム方式」「親会社(組立会社)による子会社(下請け企業)の活用など、そのままの形では海外で実践できない、あるいは通用しないようなものが多く含まれていたからです。本書の特色は、自動車産業を「戦後日本経済の勇者」と見立て、それを支えた諸条件を描き出している点にあります。

 

[あらすじ] 絞れるだけ絞れ。乾いたタオルでさえ、なお絞れる

日本を代表する自動車メーカーのひとつである川奈自動車工業の人事部長冬木毅とその下請けメーカーの社長山岡悠吉は、かつての戦友。山岡の方が1歳年長なのですが、彼が経営する鉄工所は、川奈自工に部品を納めている関係で、ある種の「上下関係」が存在。二人の男の「友情」を通して、「戦後日本経済の勇者である自動車産業」の内部がリアルに浮き彫りにされていきます。例えば、同じように「ジャスト・イン・タイム方式」と言っても、親会社と子会社では、意味するところは大きく異なっています。組立会社にとっては、倉庫も在庫も持たずにやれるので、大幅なコストダウンにつながります。他方、部品業者にとっては、親会社の生産に必要な量を必要な時に直接それぞれの生産現場まで搬入するという業務を背負うことになるのです。下請け業者は、タオルにたとえれば、「絞れるだけ絞れ。乾いたタオルでさえ、なお絞れる」と言われたほどなのです。

 

勇者は語らず

勇者は語らず