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『いつまでも白い羽根』 - 医療・看護現場とのファースト・コンタクト

「看護師を扱った作品」の第二弾は、藤岡陽子『いつまでも白い羽根』(光文社文庫、2013年)です。看護師になるためには、看護師国家試験に合格する必要があります。その受検資格を得るためには、指定された看護学校を卒業しなければなりません。本書では、「看護師の卵」とも言うべき、看護学校の学生たちの三年間の姿が追跡されています。いろいろな事情を抱えて入学してくる学生たちの「医療・看護現場とのファースト・コンタクト」が、彼らの目線で綴られています。看護師になる前に、どのようなことをどのように学んでくるのか、また看護師という職業にどのようなイメージを持っているのかといった点がよくわかります。2018年4月7日にスタートしたフジテレビ系のドラマ『いつまでも白い羽根』(主演は新川優愛さん、伊藤沙莉さん)の原作。大学卒業後、新聞記者、タンザニアへの留学、帰国後のさまざまな職業体験などを経て、結婚後には看護学校に通うというユニークな経歴を有する著者のデビュー作。

 

[おもしろさ] 座学+実習+患者との向き合い=看護師の心の準備

ベットメイキング、15分以内に仕上げるベット上での洗髪、系列の大学病院での手術見学や病棟での臨地実習、全身の清拭、浣腸の実技など。看護師業務に関わる数々の実習場面が登場します。興味深いのは、それらを学生たちがどのように感じ、対応していくのかという点です。なかでも、初めて見る手術室のリアル-電動ノコギリのような機械を駆使するときには、まるで植木屋さんや大工さんのようになり、また繊細な作業を行うときにはあたかも裁縫師のようにも思える医師たちの巧みな動作-には、「めまいと吐き気」は当たり前、卒倒する者まであらわれるほど。それは、学生たちの想像を絶する光景だったのです。病棟実習で初めて患者たちと一対一で接することも、看護師という仕事との向き合い方を試される格好の機会になっていきます。本書の魅力は、そうした看護師の卵たちが経験することになる「学び」を通して、看護という世界を垣間見させてくれる点にあります。

 

[あらすじ] 退学しようと思い続けた瑠美の心に変化が

「でもなんでまた? 大学、どこでも受かりそうなもんじゃん、あの人の成績なら」「すべり止め、看護学校だったんだって。本人の希望ではなく親の勧めで。でもそれって」「ヒサンだよねぇ」「ちょっとカワイソウな感じぃ」……。高校の卒業式当日、木崎瑠美がトレイの個室でふと耳にしてしまった同級生たちのウワサ話……。進学先を看護学校に決めたものの、「自分のように他人に心を開けない人間が、看護師になれるわけがない」と思い込んでいたのです。入学してからも、瑠美の心は沈んだまま。「きょうこそは担任に退学の意思を伝え、手続きしよう」と思い続ける瑠美。それに対し、「なに言ってるんだよ。ばかなこと言いださないでよ。まだ始まったばかりじゃん。やめてどうするんだよ。いずれやめさせられるかもしれないんだし、それまで残りなよ。この学校って入学した数の6割くらいしか卒業できないんだよ」と言うのは、不器用だが心優しい同級生・山田千夏。我慢ができず、なんでも感じたことをストレートにしゃべってしまう瑠美。歯に衣を着せず、相手にとって辛辣なことも、かまわずに言ってしまう瑠美。そんな彼女の心を癒してくれたのが千夏だったのです。千夏をはじめとする級友たちとの交流や、系列の大学の図書館で出会った医学生の菱川拓海への恋心といった経験を積み重ねることで、頑なな瑠美の心は、少しずつ変わっていったのです。