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『限界集落株式会社』 - 過疎化した農村の実情と再生の方向性

「農業を扱った作品」の第二弾は、黒野伸一『限界集落株式会社』(小学館、2011年)です。日本の農村がおかれている状況や再生の方向性を知ることができる作品。具体的には、組合法人による農業への参入という問題に焦点を合わせ、活性化の方策が模索されています。2015年1月31日からNHKで放映された、反町隆史さんと松岡茉優さん出演の土曜ドラマ限界集落株式会社』の原作本。なお、2014年には、四年後の姿を描いた続編『脱:限界集落株式会社』(小学館、2014年)が刊行されています。

 

[おもしろさ] 適材適所の人材によるコラボレーションこそが

過疎化、高齢化、雇用問題、食糧自給率の低さ。山積みする農村における経済問題の数々。この本の特色は、それらを解決する方法として農業法人に焦点を合わせ、農村活性化の方法を「適材適所による人材のコラボレーション」を軸にして描いている点です。具体的には、経営の専門家である若者(多岐川優)と、零細農家の父親(大内正登)と娘(美穂)、就農研修で田舎に逃げてきた若者たち(ネット依存のクリエーター系の谷村三樹夫、日雇い派遣であったが、マンガ家志望の梅田千秋、元キャバクラ嬢の百瀬あかね)のコラボレーションが威力を発揮していきます。

 

[あらすじ] 農業法人の可能性が追及されていきます

IT会社に辞表を提出し、事業を興そうと決断した主人公の多岐川優。ほんのひと休みのつもりで立ち寄ったのが、40戸にも満たない崩壊寸前の山間の過疎地の集落・止村(とどめむら)です。ご縁は、先祖代々の土地が残っていたこと。郵便局も小学校もなく、バスも走っていない限界集落。農業に関してはズブの素人であった彼は、過疎化を止めたい、村を再生させたいという願いから、耕作地をまとめて農業法人を作ることに。村人の説得から始まり、よい作物を作り、販路を拡大して、稼げる農業をめざします。しかし、困難と難題が次々と起こります。だれが代表者に? 何を作る? 稲作は一時停止! 有機かどうか? 農協との関係は断ち切るのか? 販路の確保は? 役場と農協による妨害といやがらせ。獣害も。彼らの農業法人はどういった方策を、いかなる形で実践していくのでしょうか! 

 

限界集落株式会社 (小学館文庫)

限界集落株式会社 (小学館文庫)

 
脱・限界集落株式会社 (小学館文庫)

脱・限界集落株式会社 (小学館文庫)