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『花のさくら通り』 - 零細広告制作会社と「地域の活性化」

「広告会社を扱った作品」の第四弾は、荻原浩『花のさくら通り』(集英社文庫、2015年)です。都心のオフィスから郊外のさびれた「さくら通り商店街」に引っ越しを余儀なくされた「ユニバーサル広告社」。生き残りをかけた活動を展開するには、地域における存在感を高めていくことが重要な要素になってきます。同社は、どのような形で地域にコミットしていくのでしょうか? 零細な広告制作会社の内実と、シャッター通りと化した商店街の活性化が難しい理由がよくわかります。「ユニバーサル広告社」を扱ったものとしては、1作目『オロロ畑でつかまえて』と2作目『なかよし小鳩組』に続く、シリーズ三作目となります。2017年10月20日からテレビ東京で放映された『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます』(出演は、沢村一樹さん、和久井映見さん)の原作本。

 

[おもしろさ] 変えたくない、聞きたくない。でも威張りたい! 

テレビCMや新聞、雑誌、ネット広告、ポスター、ダイレクトメールなどの制作を請け負う広告制作会社。その事業活動は、クライアントの要望に端を発するのが通常のケース。ところが、顧客となりうる商店街を運営している商店会の幹部たちにとっては、広告制作会社は「ただの印刷屋」。いくら広告の重要を説明しても、まったく聞く耳を持ち合わせていません。閑古鳥が鳴いているにもかかわらず、「やる気」がないのです。彼らが「欲しいのは、金ではなく、商店会というちっぽけな世界での王様の椅子」。要するに、人に威張りたいだけなのです。本書の魅力は、「変えたくない、聞きたくない、でも威張りたい」と考えている商店会の幹部連中を前に、いかに自分たちの活動を認めさせ、評価してもらえるようになっていくのかという過程を描いている点にあります。

 

[あらすじ] シャッター通りと化した商店街で展開されるのは? 

社長の石井健一郎、クリエーティブ・ディレクターの杉山利史、アートディレクターの村崎六郎という三人の主力メンバーのほか、アルバイトの猪熊エリカがいるユニバーサル広告社。移転先のさくら通り商店街の最寄り駅はJR桜ケ森駅。しかし、駅前には聞いたことのない名前のスーパーと派手な映像看板の電器店しかありません。少子化やスーパーの進出で、シャッター通りになっています。そんな商店街を舞台に、祭りの企画、放火犯の捕獲、商店街における世代ギャップ、行覚寺の跡継ぎ・光照と牧師の娘・初音との恋の行方などに関わる話が、杉山を中心とするユニバーサル広告社の活動と絡めて語られていきます。