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『株式会社ネバーラ北関東支社』 - 「想定外の出来事」から転職を決意

「転職を扱った作品」の第二弾は、滝羽麻子『株式会社ネバーラ北関東支社』(幻冬舎文庫、2011年)。30歳目前で「想定外の事実」にうろたえ、パニックになった弥生。転職を決意し、東京を離れ、北関東のある都市で働き始めるなかで、徐々に自分自身をとり戻していく姿が描かれています。

 

[おもしろさ] 懸命に努力すれば、うまくいくという思い込み

本書のユニークな点は、「想定外の事実」を突きつけられたときのインパクトをみごとに描き切っているところにあります。では、ここで指摘されている「想定外の事実」とは? 弥生は、昔から努力を信じていました。もともとの性格に加えて、両親の影響もあるかもしれません。「自分で考えて、自分で決めなさい」。そして、決めたからには全力を尽くしなさい。そう教えられてきたのです。まずは目的を定め、それに向けてきちんと計画を立てて実行に移せば、物事は必ずうまくいくものだ。うまくいかないのは、十分に考えていないか、もしくはがんばりが足りないからにほかならない。要するに本人が怠けているだけなのだ、と。受験も就職も、そして恋愛も、弥生はそうやって乗り切ってきました。うまくいかなかったことは一度もなかったのです。だから、30歳目前で突如として自分の人生をコントロールできなくなるなんて、思ってもみませんでした。「想定外の事実」にうろたえ、パニックになったのです。このまま頑張り続けると、とりかえしがつかないくらいすり減ってしまう。せめて冷静な判断能力がいくらかでも残っているうちに動きたい、いや動かなければと考えたのです。それまでの状況をリセットして体力を整える時間が必要だと考えたのでした。実際のところ、計画を立て懸命に努力すれば、物事は必ずうまくいくとも限りません。ところが、そう信じてきた弥生にとっては「うまくいかないこと」との遭遇は、パニックを引き起こすに十分な「想定外の事実」だったのでしょうね! 

 

[あらすじ] 頑張り屋さんの弥生が遭遇した初めての「想定外」

新卒で入社して7年間務めた外資系証券会社を退職した弥生。辞めたときの肩書はマネージャー。多忙な仕事と、恋人に一方的に別れを宣告されたことで、やる気というか、働く気がわいてこなくなったのです。しかし、会社を辞める決心をしたのは、失恋が原因ではありませんでした。むしろ、これまで自分が信じてきたこととは違う、いわば「想定外の出来事」に自分をコントロールできなくなったからなのです。転職先は、納豆を主力とする健康食品の下請けメーカーでした。携帯電話を持たず、東京にはないゆるい生活の始まり。配属されたのは、スタッフが5名の経営企画部。経営企画がらみの仕事だけではなく、なんでもこなす部署のようです。ここでは、「十分に休養を取ってから次を考えればいい」というのが、彼女の状況。やがて、ブログを使って商品を口コミで広めていくやり方を提案。働くことの喜びが少しずつ湧き上がってきます。

 

株式会社ネバーラ北関東支社 (幻冬舎文庫)

株式会社ネバーラ北関東支社 (幻冬舎文庫)

  • 作者:瀧羽 麻子
  • 発売日: 2011/06/09
  • メディア: 文庫