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『周極星』 - 混沌さと不思議なバイタリティが共存する国=中国

2010年、日本を凌駕し、世界第二位の経済大国になった中国。現在では、一人当たりのGDPでも「高所得国」の水準に近づきつつあります。巨大な市場であり、「世界の工場」でもある同国に対する世界のビジネス界の関心は半端なものではありません。しかし、中国で円滑にビジネスを行う人たちには、さまざまな試練と困難が待ち受けています。ほかの国々では考えられない「想定外」がたくさんあるからです。中国ビジネスをうまく行っていくためには、「郷に入れば郷に従え」と言う言葉に示されるように、中国の政治・文化・法律・歴史などに対する深い造詣が不可欠なのです。今回は、「つかまえどころがない」「欧米日のビジネス上の『常識』が通用しない」中国ビジネスの真髄を探るため、三つの作品を紹介します。いずれも、日本人ビジネスパーソンの長所と短所についても気づかせてくれる作品でもあります。

中国ビジネスを扱った作品」の第一弾は、幸田真音『周極星』(中央公論新社、2006年)。明確なロードマップなどないまま、市場経済化を進め、高度成長を実現させている中国。混沌さと不思議なバイタリティが共存する国。そんな中国経済の中心にあるのが、上海です。その町を舞台に展開される「中国ビジネスの魅力とむずかしさ」が余すところなく描かれています。

 

[おもしろさ] 日本人でも中国人でもない「アジア人」

日本人にはわかりにくい中国人のビジネス感覚として挙げられているのは、「日本で言う仁義なんていうものは、絶対に期待してはいけない社会」「恩義もありはしない。最初からそう思っていないと、必ず失敗する」「経理のなかで一番偉くて優秀なのは、金を支払わないで済ませられる人間だ」。と同時に、日本人の特性についても言及されています。「日本の男の言動は、みんな予測がついてしまう」。「どれもステレオタイプで、予定調和的で新鮮さに欠ける言動」「どうしてこうまで退屈な男ばかりなのだろう」。本書の魅力は、そうした中国人と日本人の良いところを兼ね備えた「アジア人」とも言うべき新しいビジネスパーソン像を模索している点にあります。

 

[あらすじ] 数奇な運命に翻弄される織田一輝と胡夏

主人公は、中国=上海という極を舞台に、数奇な運命に翻弄される一組の男女。子ども時代に知り合い、いがみ合ったまま分かれてしまった二人。やがて、中国の自動車ローンを証券化して、日本の投資家に売っていこうという事業を機に、再会を果たします。女は、日本人の父と中国人の母を持つ美貌の女性実業家の胡夏琳。男は織田一輝。父が貿易商だった関係で、北京生まれで、中国語に堪能。いまは投資顧問会社の社長をしています。「日本人であることをいやでも自覚させられ、その限界を味わわされてきた」父・昭光からは、中国人のような割り切り方と逞しさを要求されました。その結果、「中国人のごとく強欲に、日本人のように礼儀正しく、そしてなりよりも緻密な計算のできるコスモポリタンとして、みずからの心地良い位置づけを学んでいったのです。」それは、国際的なビジネス展開にとって、不可欠な要素と言えるもの。果たして、彼らが織りなす物語とは?