「転職を扱った作品」の第三弾は、雫井脩介『引き抜き屋(1)鹿子小穂の冒険 』(PHP研究所、2018年)。転職を支援することをビジネスにしているのがヘッドハンティング会社。そこで働くヘッドハンターたちの仕事ぶりは、これまであまり知られてはいない「未知の世界」に属していました。この本は、ヘッドハンターたちの苦悩・駆け引き・仕事の真髄を描いています。2018年にWOWOWでドラマ化されました。「引き抜き屋~ヘッドハンターの流儀~」。主演は松下奈緒さん。出演は内田有紀さんでした。
[おもしろさ] 一つの案件が成功裏に終わるためには
かつてヘッドハンターといえば、対象は外資系が中心で、報酬も高額というイメージがありました。ところが、いまでは、ヘットハンティング会社が増加し、業界内の競争が激化したこともあって、ごく普通の国内企業も視野に入れられ、報酬も前受け金型から成功報酬型にシフトしつつあります。ただ、そうはいっても、一つの案件が成功裏に終わるためには、「依頼側の企業・ヘッドハントの候補者(キャンディデイト)・介在する力量のあるヘッドハンターという三者間の絶妙な連携と信頼関係」は不可欠となります。さて、優れたヘッドハンターって? 本書は、等身大のヘッドハンターの実像を浮き彫りにした作品です。
[あらすじ] 一人前のヘッドハンターとして成長していく姿が!
鹿子小穂30歳は、父の隆造が創業し、キャンプ用品やアウトドアウェアなどの製造販売を手掛けている中堅企業「フォーン」の取締役を務めています。常務の大槻信一郎との意見対立が顕在化したとき、「一度、外の世界を見てきなさい」という父の言葉に従って、小穂は退社。ちょっとしたはずみで、ヘッドハンティングを営む「フォルテフロース」の並木剛で出会った直後に、ヘッドハントの最前線に狩り出されます。そして、社命を背負った依頼側と人生の岐路に立たされた候補者の本音のやり取りに惹きこまれ、涙を流してしまうことに。「本当に心からあなたの力が欲しいと言ってくれる人がいて、言ってもらえる人がいるなんて、奇跡みたいに思えてしまう!」それがヘッドハンター鹿子の始まりでした。一人前のヘッドハンターとしてめざましく成長していく様子が描かれていきます。