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『銀行大統合』 - みずほフィナンシャルグループ誕生劇

メガバンクを扱った作品」の第三弾は、高杉良『銀行大統合』(講談社、2001年。その後、『銀行大統合 小説みずほFG』に改題)です。メガバンク創設を軸とした金融業界の大再編の引き金となった「みずほフィナンシャルグループ」誕生までのプロセスを実名で描いたドキュメンタリー小説。第一勧業・富士・興銀という三行統合による「補完・相乗効果」で「世界のメジャーとも伍していけるメガバンク」と、大いに期待されてのスタートでした。

 

[おもしろさ] 世界でも例がない三行統合

1997-98年に幾つかの大型金融機関の破綻を経験した金融界では、「日本版ビッグバン」のもと、外国金融機関や国内異業種企業との間で激しい競争がスタートしました。そして、2000年以降、「四大金融グループ」(みずほ、三井住友、三菱東京UFJ)の形成を軸に、事態が大きく流動化。そうした金融再編の引き金を引いたのは、第一勧業、富士、日本興業の三行が「みずほフィナンシャルグループ」を創設させたことでした。世界でも例がない三行統合。しかも、第一勧業銀行は一勧グループ、富士銀行は芙蓉グループの総帥的存在。日本興業銀行には、「長信銀のステータス」と高いプライドがありました。したがって、それぞれに重みのある行名を消し去り、わが国では「過去に例がないビジネスモデル」となる持株会社による経営統合に踏み切るまでには、さぞかし長い紆余曲折があったのではと勘ぐってしまいます。しかしながら、その歴史的な合併劇の舞台裏をドキュメント風に描き上げた本書を読めば、合併話の浮上から三行頭取による大筋合意までに要した期間がわずか「24日」、それから合併の調印までなんと三ヶ月半、当事者自身が驚くほど実にスピーディーに事が運ばれたことがよくわかります。また、三行トップの心の動きや新生「みずほ」に賭ける熱き思いをはじめ、持株会社の代表者の位置づけ、三行の順序、システムの統一、会社名の決定などの難問がどのように解決されていったのかが理解できます。

 

[あらすじ] 三行トップ間での合意は猛スピードで成立

大手都銀による熾烈な競争が展開され、銀行再編が時代の要請になりつつあった1999年。すでに富士銀行から「合併・統合で強いアプローチを受けていた」第一勧業銀行(DKB)。一勧の杉田力之頭取は、西之原敏州副頭取との間で、「一勧・富士・興銀の三行統合以外にはない」という点で合意。同年4月、部下から統合についての話を聞いた日本興業銀行IBJ)の西村正雄頭取は、「三行統合、いいじゃないか。それで行こう……。世界的なメガ・コンペティション時代でも生き残れるぞ」と即決。かくして、富士銀行の山本惠朗頭取の合意も得て、事態は三行統合へと一気に進展していきます。とはいえ、トップ同士の猛スピードについていく事務方の方は、「さあ大変」! 統合までに決めておくべき課題は山のように立ちはだかったのです。