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『投資銀行青春白書』 - 外資系投資銀行のリアルな日常

外資を扱った作品」の第三弾は、保田隆明『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社、2006年)です。経済や株式の知識をまったく持っていないにもかかわらず、外資投資銀行「マンハッタン証券」に就職した「イマドキのOL」の奮闘記。企業の合併(M&A)や資金調達のアドバイザー業務をメインとする投資銀行本部の業務内容がやさしく描かれています。投資銀行で働きたいと考えている人には、格好のテキストと言えます。著者は元投資銀行マン。

 

[おもしろさ] 日本企業とはここが違う! 

この本を読み終えて興味をそそられたのは、やはり日本企業と外資系企業の違いでした。いくつかの点を紹介すると、一点目は、外資系企業における社員の呼称です。この本で登場する事例では、大学を卒業して新卒で入社すると、最初の3年間は「アナリスト」(平社員)と呼ばれます。4年目からは「アソシエイト」という役職になり、その上の役職は「バイス・プレジデント」(直訳すると「副社長」ですが、一般企業で言うと、中堅クラスのイメージ)もしくは「ディレクター」と呼ばれています。その上には、「シニア・バイス・プレジデント」もしくは「エグゼクティブ・ディレクター」、さらに上には「マネージング・ディレクター」という役職者がいるのです。二点目は、マンハッタン証券には、投資銀行本部のみならず、セールス部門やトレーディング部門があり、それぞれのビジネスモデルが異なるがゆえに、利益相反の関係が成り立ってしまうケースがあること。三点目は、外資系証券会社では、売上高のおおむね40~50%が人件費になっていること。売上が増えると、給料が増えるし、逆に減ると給料も減る。それでも足りない場合は、人が減らされます。その結果、四点目として、人員削減が結構頻繁に起こる点を挙げることができます。赤字になっても、従業員の雇用が守られる日本企業とは大きく異なり、人件費を変動させることで利益を確保し、株主に報いるようにしているのです。五点目は、解雇の基準が非常にあいまいで、上司の恣意で決まってしまうケースも多々あること。というのは、「仕事のデキ、不デキ」というよりは、「上司とウマが合わなかった人」「自己表現がうまくなかった人」などが首切りの対象者になってしまうケースが多いからです。六点目は、日本企業とは違って、社内は仕事の場であり、プライベートが完全に分離されているため、社内恋愛がほとんど成り立たないことなどです。

 

[あらすじ] 厳しくて懸命な指導が功を奏して

帰国子女なので、英語は喋れたものの、金融や株式に関する知識はほとんど持っておらず、「イマドキの女子大生」の雰囲気を醸し出していた下園雅(通称「ミヤビ」)。マンハッタン証券への採用に際しては、多くの反対意見が噴出。が、「うちの業界も頭のいい素直な人間だけではなく、ああいうぶっとんだのを一人ぐらい入れて触発させるのもいいんじゃない? だめならクビにすればいいし」という、当時はシニア・バイス・プレジデントであった平井の一言で採用が決まったようです。新入社員に課せられるニューヨークにおける約1か月の研修中、ミヤビは、寸暇を惜しんで遊び回り、「ダメ社員」「問題児」の烙印が押されることに。しかし、3年後、ミヤビは、グループヘッドである平井(マネージング・ディレクター)のもと、彼女の教育係的な役割を担っていた、梶田(バイス・プレジデント)による厳しくて懸命な指導が功を奏し、それなりに戦力の一環としての役割を果たせるまでになっていたのです。