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『ランウェイ』 - きらびやかなディスプレイの裏に

「アパレルを扱った作品」の第二弾は、幸田真音『ランウェイ』(集英社、2011年)。最初はショップの店員。次はイタリアの有名ファッション・ブランドの女性バイヤー。最後は、ニューヨークで「MIDI」(フランス語で昼の意味)というファッション・ブランドを立ち上げる柏木真昼。そうした彼女のステップアップのプロセスを追跡するなかで、アパレル業界の内実、商品の調達から販売までに携わる人たちの苦労、各ブランドの新作発表の場であると同時に受注会場ともなる「ミラノ・コレクション」の内幕、ファッションショーでモデルたちが躍動するランウェイの存在感などが浮き彫りにされていきます。時間を忘れて立ち尽くしてしまう魅力あふれるディスプレイの裏に潜む、多くの努力や葛藤に迫れる作品です。

 

[おもしろさ] 成長の原動力になった考え方と心構え

この本の最大の魅力は、常に前を向き、一歩一歩ステップアップを実現させていく柏木真昼の考え方と行動力にあります。でも、そんな彼女は、けっして特別な資質を有した稀有な人物であったわけではありませんでした。ただ、①常に前を向いて進んでいこうという精神と行動力、②どんなきっかけでもものにするという心構え、③買い付けをするときには、お客さまの顔、そして売り場の担当者の顔を思い浮かべながら行うというポリシー、④努力があればこそ、チャンスをつかむことができるという考え方など、成長の原動力となる考え方だけはしっかりと持っていたのです。

 

[あらすじ] ミラノで始まった大きな変転! 

有名ブランド「アレッサンドロ・レオーニ」の店員として多忙な日々を送る真昼。アシスタントとはいえ、いきなりバイヤーに抜擢された彼女は、不安な気持ちにさいなまれながらも、ミラノに出張することに。同行するのは、厳しさで定評のあった先輩バイヤーの津田史子でした。9月25日から10月3日まで開催された「ミラノ・モーダ・ドンナ」に魅了された真昼は、バイヤーとしての「プロ意識」に触れるなかで、なんとかやっていける手ごたえをつかみ始めます。帰国後、ミラノで買い付け、「特別な思い入れ」を感じていた商品の売れ行きが好調に推移。一層の飛躍を胸に二度目のミラノに向かった彼女に、セレクトショップのチーフ・バイヤーである花井正子から思いもよらない転職の誘いを受けます。それは、アレッサンドロ・レオーニという固定ブランドの買い付けではなく、世界中のたくさんのデザイナーから買い入れことになるバイヤーにならないかというものでした。と同時に、元カレの村尾博之からは、自分のセレクトショップを立ち上げるので、経営の一切をゆだねる日本人女性を探していると、独立の申し出をされることに。かくして、真昼の運命は大きく変転していきます。

 

ランウェイ

ランウェイ

  • 作者:幸田 真音
  • 発売日: 2011/09/22
  • メディア: 単行本
 
ランウェイ 上 (角川文庫)

ランウェイ 上 (角川文庫)

 
ランウェイ 下 (角川文庫)

ランウェイ 下 (角川文庫)