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『ひなた弁当』 - 自分で調達した食材で弁当を作り、路上で販売する

弁当屋を扱った作品」の第二弾は、山本甲士『ひなた弁当』(小学館文庫、2017年)です。「自分が調達した食材を使って弁当を作り、路上で販売する」弁当屋の物語。リストラで追い詰められた49歳の男性が、本人も気づいていなかった潜在能力を見出し、たくましく成長していきます! 

 

[おもしろさ] 「自然の恵み」をフル活用

都心などの人口密集地では難しいかもしれません。ところが、ちょっと郊外に行けば、たくさんの自然が残されています。そして、栽培しなくても食べることができる食材が実にたくさん存在しているのです。そうした「自然の恵み」をフルに活用して弁当を作るとすると、どのような展開があり得るのでしょうか? 

 

[あらすじ] 弁当屋の開業に行きつくまでには……

人員削減を行うことになった宅地開発会社「王崎ホーム」。営業部第二課課長補佐の芦溝良郎は49歳。課長補佐の肩書は、顧客の信頼を得やすいという程度の意味合いしか持っておらず、実際には一営業担当者にすぎません。自己評価は、「気が弱い。要領が悪い。はっきりした態度をなかなかとれず、相手をいらいらさせる」と、ネガティブなことばかり。家に帰れば、妻の康世からは愚痴を言われ続け、おまけに同居している次女の真美は話しかけてもろくに返事もしない始末。ある日、上司の口車に丸め込まれ、人材派遣会社「チームワーク」への「出向」と退社を受け入れます。しかし、それは、単に人材派遣会社に登録することだけだったのです。就職活動を始めるものの、なかなかうまく行きません。やっとありつけた宅配便の流通センターでの仕事も、腰痛の不安を抱える良郎には、非常にきついものでした。徐々に働く意欲を失っていきます。心の病を疑い始めた彼は、たまたま「市民の森公園」でドングリを見かけ、食べてみようと思ったのです。それが良郎の運命を大きく変えていくことになります。ドングリだけではなく、イチョウの実(ギンナン)や、ミツバ、フキ、タンポポといったさまざまな野草など、周りにはたくさんの「食べることができるもの」があることに気づきます。やがて、野草の採取、昼食の自炊、さらにはオイカワとかフナといったコイ科の魚を釣り、調理をして食べることなどが彼の日課になっていきます。そして、川魚の佃煮・甘露煮・南蛮漬け・天プラ、ウナギのかば焼き、エビのかき揚げ、野草のおひたし・あえ物・天プラなど、ただで手に入る食材を使った弁当屋を開業させることを思いつきます。スーパーの安売り弁当との競争に勝てず、廃業を決めかけていた弁当屋「いわくら」の大将と協力し、その運営を事実上引き継ぎます。最初はなかなか売れませんでした。が、彼はいつの間にか元気を取り戻し、精神状態も大いに改善したのです。やがて路上、つまりは「ひなた」で販売される手作り弁当に、「ひなた弁当」という名がつけられることになります。