「警察官を扱った作品」の第三弾は、真保裕一『脇坂副署長の長い一日』(集英社、2016年)。地元出身のアイドル歌手が「一日署長」を務めることになる交通安全運動の初日。脇坂誠司副署長に次々と降りかかるトラブル・事件。長い一日を分刻みで突っ走る脇坂の姿を通して、警察組織の実態や警察官のお仕事に肉薄していきます。
[おもしろさ] 清濁併せた、警察・警察官の実像が!
この本の魅力は、脇坂副署長の考えや行動を通して、警察という組織の内実と警察官の実像を浮き彫りにしていること。「警察官の職務に対する誇りと喜び」、「警察官としての志」、「刑事をやっていくうえで必要不可欠な資質である執拗さ」について指摘されています。他方、「身内への甘さ」、「県警内での派閥争い」、「ことなかれ主義」、「女性を追いかけまわして通報され、別の署員に逮捕される不祥事」などにも言及。また、「理屈で解いて納得させないと、不平ばかりを募らせる」。「警察学校で厳しくふるいにかけられたつもりでも、驚くほどナイーブな若者が時に入ってくる」といった指摘も。
[あらすじ] 「事件の匂いを嗅ぎつけたら、最後まで喰らいつく」
未明の午前4時35分、賀江出警察署の通信係から、副署長の脇坂に事故の報告が入ります。スクーターが転倒し、かなりの損傷。運転していたのは、署内きっての要注意人物である鈴木英哉25歳のよう。本人とは連絡が取れない。嫌な気分に陥る脇坂。「何の因果か、この日に限って」! というのも、その日は、あと5時間ほどで、春の交通安全運動のスタートを飾る「一日署長」のイベントが開催され、メディアの問い合わせも殺到していたからです。「一日署長」を務めるのは、地元出身の女性アイドル歌手・桐原もえみ。しかし、その事故報告は、その後に次から次へと引き起こされるトラブル・事件の序曲にすぎなかったのです。収拾を任された脇坂は、「事件の匂いを嗅ぎつけたら、最後まで喰らいついてくる」「根っからの警察官」。複雑な事の真相にどのようにたどり着いていくのでしょうか?