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『錬金』 - バブルもバブル崩壊もすべてアメリカが仕組んだこと

「バブルの時代を扱った作品」の第五弾は、石川好『錬金』(新潮社、1998年)文無しの状態から、日本人の多くが「キャッシュ・ジャンキー(現金中毒患者)」になったバブルの時代、大富豪となり、バブルが終わると、再び文無しになったある男の物語。

 

[おもしろさ]「日本列島を売れば、アメリカが四個も買える」

1985年、純資産で世界一の金持ち国になった日本。「日本列島を売れば、アメリカが四個も買える」と言われたほどの時代でした。本書のおもしろい点は、バブルもバブル崩壊もすべてアメリカが仕組んだものであるという見方にあります。当時、日本とアメリカの貿易は、アメリカがどんなに努力をしても赤字でした。アメリカのドルは日本に流れる一方。これには、アメリカ人は耐えられません。どうすれば日本からドルを取り戻せるのか、そればかり考えていたのです。そのため、日本とアメリカの間に大きな金利差を作りました。また円が高くなるようにアメリカ政府は圧力をかけます。なにもかも、ドルを取り戻したいからです。それだけではありません。「アメリカの巨大な資本が日本に円高圧力をかけ、空前のバブル景気を」作り出しました。テキサスの「石油メジャーが保有する有り余る資金を日本に上陸させ、地価や株価をつり上げて最後は売り逃げするように」し向けたのです。

 

[あらすじ] バブルで大富豪となり、その崩壊とともに無一文に

1946年に生まれの富繁金太は、30歳を過ぎても職を転々としていました。妻に逃げられたあと、38歳の時に三度目の渡米を果たし、移民一世の大富豪で、謎の人物・園川守が経営する中部カリフォルニアの農園で細々と働いていました。84年のことです。やがて、美和子という女性と恋に落ちると同時に、サンフランシスコで日系の不動産屋に務めることに。高金利目当てでアメリカにドイツや日本のお金が流入し始めるようになったこともあって、不動産業は順調。金太は、それなりの蓄えを持つようになります。しかし、85年のプラザ合意以降急速な円高が進行したために、アメリカで働いてドルを稼ぐよりも、日本に帰国する方が得であると考えます。時代の流れが「モノを作ってカネを稼ぐか、モノを流通させてカネを稼ぐ時代から、カネにカネを稼がせる『バーチャル経済』の時代に」入りつつあったのです。87年、金太は3年ぶりに東京に帰り、「日本サニタリー・サービス社」を創業。その社長に就任し、一財産を築いたあと、株に投資するように。そして、いつか負ける日が来るという不安感を持ちながらも、一兆円でカリフォルニアのゴルフ場を知人の佐藤に買わせるという話を側面からサポートするため、ありったけの資金を投入して、一生一代の大ばくちを行います!