「企業をモデルにした作品」の第二弾は、吉田理宏『黄色いバスの奇跡』(総合法令出版、2013年)です。第一弾と同様、「企業の再生・活性化」を扱った作品。今回のモデルは、北海道帯広市にある十勝バス(略称勝バス)です。かつて倒産寸前まで追い込まれた同社が、地域で愛される会社に変わっていく過程が実名で描かれています。
[おもしろさ] 企業再生にリーダーの思い込みと愚痴からの脱却が
地方にあるバス会社の圧倒的部分は赤字。その多くは、国や地方自治体からの補助でなんとか経営を維持しています。そうした環境のもと、十勝バスは、活性化のためのいろいろな施策を講じて、2011年度には40年ぶりの増収に転じたのです。では、どのような経緯があったのでしょうか? 再生に向けての道が軌道に乗るまで、従業員の多くは、現状を変えようとはしませんでした。「動くことで得られる喜びを知らなかった」のかもしれません。「バスに乗せてやっているんだ」という思いさえあったのです。しかし、変わらなくてはならなかったのは、単に従業員だけではありませんでした。なによりも、野村文吾というリーダー自身に、心の準備ができていなかったのです。「自分一人だけが頑張っている」という思い込みや、愚痴ばかりという態度が続く間は、組織の活性化は実現できません。では、彼のそうした態度がどのようにして変わっていったのか? さまざまなアイデアがいかにして実行されていったのか? 異業種のビジネスマン・ビジネスウーマンにも大いに参考になる作品です。
[あらすじ] それは、いきなりの、しかも手探りのスタートでした
1998年、「経営企画本部長」として、十勝バスに入社した野村文吾。ところが、父親である社長からは、「支援も手助けも教えもしない」と言われたうえでのスタートとなりました。そのため、いきなりの、しかも手探り状態で、事実上第4代目社長としての役割を果たすことを余儀なくされたのでした。最初の試練は、「賃金アップ」「労働環境の改善」を訴える組合側との折衝でした。その後も、容赦なく次から次へと新しい壁が立ちはだかります。「なぜ、何とかしよう」と思わないのか? 焦る文吾。しかし、事態はまったく変わりませんでした。入社して5年経ったある日、転機が……。再生への歯車が回り始めたのです。