経済小説イチケンブログ

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『奇跡の改革』 - 富士フイルムによる「アスタリフト」の開発物語がモデル

経済小説の対象として、最も大きなウエイトを占めるのは、企業を扱った作品です。かつて「経済小説=企業小説」と考えられていたのは、そうした理由があったからです。さらに、企業を素材にした作品のなかには、実在の企業をモデルにした小説が多くあります。もちろん、モデルだからといって、話のすべてが「事実」というわけではありません。小説なので、あくまでもフィクションです。ただ、その点を念頭に読んでいきますと、モデルとされた企業を理解するための視点やヒントを得ることができるでしょう。そこで、「企業をモデルにした作品」を六回にわたって紹介します。

「企業をモデルにした作品」の第一弾は、江上剛『奇跡の改革』(PHP学芸文庫、2018年、『断固として進め』を改題)です。フィルムメーカーが化粧品という、まったく新たな分野にチャレンジする物語。その企業のモデルは、富士フイルムです。

 

[おもしろさ] えっ? フィルムメーカーが化粧品ですか? 

「フィルムメーカーが化粧品を開発した」と言いますと、初めて聞いた人には、ビックリ感があるかもしれませんね。しかし、この本を読めば、フィルムの製造で培われた技術を応用することの延長線上に、「アスタリフト」という化粧品にあったということがわかります。また、化粧品開発のプロセスそれ自体が非常に興味深く、読者を楽しませてくれます。危機感をバネにして、社長と社員が一丸となって新たなビジネスモデルの構築をめざしたこと、できあがった化粧品がそれまでの常識とは異なったものであったこと、化粧品開発や販売方法など、異業種参入だからこその強みが活かされたことなど、新事業構築の格好の事例と言えます。さらに、「化粧品人口」はむしろ増加しているという指摘にも、興味がそそられます。少子化が進んでいるにもかかわらず、化粧をする女性は低年齢化、高年齢化しているとか。

 

[あらすじ] いかにして「起死回生」プロジェクトが生まれたのか

国産フィルムメーカーとして1934年に創業された「日本写真フイルム」。皮肉なことに、同社が推進し、業界トップのシェアを獲得していたデジタルカメラの台頭によって窮地に立たされました。そうした状況下、2000年に社長に就任したのが大森高志。彼は「本業消失」の可能性を予感していたのです。2006年に人員のリストラを含めた計画を打ち出し、社員に危機感を訴えました。また、「日本写真フイルム」という伝統的な社名から「写真」の二文字を取り、「第二の創業」が指向されたのです。一方、足柄研究所所長の戸越正也もまた、大森と同様の危機感を抱いていました。技術者・研究者魂の再生をめざして、彼が取り組んだのが「起死回生」のプロジェクトです。彼のもとに結集した 6名のメンバーは、フィルム製造で培った技術を生かして化粧品など、人々の美容と健康に寄与するものを製造することをめざしたのです。そして、ついに……。

 

奇跡の改革 (PHP文芸文庫)

奇跡の改革 (PHP文芸文庫)