経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『異端の大義』 - 巨大総合家電メーカーの「危機と再生」の物語

「電機産業を扱った作品」の第五弾は、楡周平『異端の大義』(上下巻、毎日新聞社、2006年)。巨大な総合家電メーカーの危機と再生を描いた物語。東洋電器産業に勤務する高見龍平は、エリート社員でありながらも、上司への直言で恨みを買うハメに陥ります。しかし、左遷やいじめにもめげず、やがて危機に陥った東洋電器の救世主として活躍することになっていきます。

 

[おもしろさ] 内部の力か、それとも外部の力か

破綻の危機に直面した企業を再生するには、どのような方策があるのでしょうか? 大別すると、内部から湧き上がる力(社員や経営者の自助努力など)によって再生されるケースと、外部の力(他の企業、再生ファンド、産業再生機構など)によって再生されるケースがあります。ここでは、内部で改革をめざすパワーがいったん挫折するものの、外部の再生ファンドの力を借りて再生を果たしていくというドラマが展開されています。では、なぜそのようなストーリーにならざるを得なかったのでしょうか? 本書の読みどころと言えるでしょう。

 

[あらすじ] 恨みを買い左遷され 、退社を強いられても

東洋電器産業の業績は最悪で、危機状態に陥っていました。企業派遣のチャンスをつかみシカゴ大学MBAを取得したエリート社員の高見龍平は、カリフォルニアにおける同社のR&Dセンターの撤退業務を無事に終わらせ、東京の本社に舞い戻ります。ところが、同期の仲で、創業者の家系につながる湯下武郎人事本部長に直言したことから、恨みを買い、岩手工場人事部労務担当部長として、同社の閉鎖業務に携わることに。父が言いました。「龍平、ここが正念場だぞ。お前が企業人として職務を全うできる人なのか、それとも企業人として無能な人間か、会社がいまお前にその踏み絵を突き付けているのだ」と。しかし、高見の挫折をみたいと思っていた湯下の私怨は、高見が円滑に閉鎖業務を行ったために破綻してしまいます。そこで、今度は、慢性的な業績不振に悩む販売会社へ営業部長として出向させます。絶望感のなかで、高見は転職を決意。かつて偶然出会ったことがあったカイザー・アメリカの副社長のコネで、カーザー・チャイナに転職。一方の東洋電器の危機は一層深刻になっていきました。重役たちの議論は、もっぱら業績不振の犯人探しに終始。当然のことながら、会社を立て直すための方策を構想する力はありません。選択肢は、「産業再生機構送りにされるか、あるいは外資の再生ファンドに支援を仰ぐかだ。しかしそのいずれの道を選んだとしても、結果は同じだ。東洋はばらばらに解体、不採算部門は整理され、それ以外はしかるべき同業他社に売却される」。

 

異端の大義(上)

異端の大義(上)

 
異端の大義(下)

異端の大義(下)