「市役所職員を扱った作品」の第二弾は、荻原浩『メリーゴーランド』(新潮文庫、2006年)です。前例がないことには臆病な公務員の世界。変えることに恐怖心さえ抱いている人も例外ではありません。まさに「ぬるま湯」の世界です。本書は、そこから抜け出し、破綻寸前のテーマパークを再生するという困難をきわめるプロジェクトに挑んだ男の物語です。
[おもしろさ] 「ぬるま湯」から脱出できた三つの理由
この本のおもしろさのひとつは、長らく「ぬるま湯」に浸かっていた市役所職員の主人公・遠野啓一が、三つのことを契機に、俄然やる気を出し始める点の描写にあります。三つのきっかけとは、①元上司である商工部長の「好きにやりたまえ」という後押し、②「でもね、ケイちゃん、アフリカにライオン狩りに行くわけでもないし……。たかが仕事じゃない。そんなに深刻になるなんて馬鹿らしいからやめな」という妻のひとこと、③小学生になったばかりの息子の哲平の作文のなかに書かれるお父さんのイメージをしっかりとしたものにしたいと思ったことです。こうして、「自分の誇り探し」をスタートさせたのです。もうひとつのおもしろさは、テーマパークを活性化させるために採られるあの手この手のアクションプランにあります。特筆に値するのは、起死回生のアトラクションになるはずのメリーゴーランド。設置場所は、周囲の山々を360度のパノラマで眺望できる高台。それは「日本で一番高い場所にあるメリーゴーランド」!
[あらすじ] 破綻寸前のテーマパークへの出向
遠野啓一(36歳)は、過労死続出の家電メーカーを退社。Uターンで勤め始めた故郷である駒谷市の市役所勤務も9年目に入ります。ヒマを弄ぶ同僚たち。啓一も、そんな動きのない空気感のなかで過ごしていました。ところが、市が建設し、7年まえに開園したテーマパーク「アテネ村」の運営会社である第三セクター「ペガサスリゾート開発」に出向。「アテネ村リニューアル推進室」の係長に就任します。「天にいちばん近いアミューズメント」を掲げて営業し続けてきたものの、累積赤字は47億円に。アクセスの悪さ、用をなさない看板、従業員の接客態度の悪さ、駐車場から入り口までの遠さ、高い入場料、不明確なコンセプト、落書きの多さなど、問題点を上げ始めると、キリがありません。幹部たちの面々も本気で再生しようという気はない様子。さて、サジを投げられた推進室はどうするのでしょうか。再生に向けて、数々のアクションが試みられていきます。